841.2045年の肉(2017.10.16掲載)
先日、人工知能やIT系の研究者とディスカッションする機会があった。SONY、IBM、NTT等のメンバーに混ざって食品業界は私だけ。 テーマは2045年の食糧事情。「30年後にIT企業が果たす役割は何か」てな感じだったが、どうも絵空事で気が入らなかった。 そこで、食糧問題解決策としてファン・エーレン氏の培養肉研究を紹介した。シャーレで作る人工肉である。 細胞培養で食肉を得ることができれば、動物を飼育したり殺したりせずに食肉が増産でき、2045年に倍増すると予想される世界の食肉消費量に対応でき、同時に飼料穀物を人間に回せる。 さらに、畜産業は人間活動に伴う温室効果ガス排出量全体の約18%を占めており、これは全世界の輸送部門による排出量より多い。また、凍土を除く土地の30%が家畜の放牧と飼料の栽培に使われているから、この土地も有効活用できる。 培養肉の製造理論はこうだ。まず、家畜から採取した胚性肝細胞(ES細胞)を培養液中で増殖させる。その後筋肉に分化させ、最後に「鍛えて」大きくして完成。理論上は10個の細胞から2ヶ月で5万トンの肉が作れるという。 大戦下のインドネシア。日本軍捕虜収容所で強制労働に従事させられていたオランダ人ファン・エーレン氏は、当時の空腹をこう振り返る。 「間抜けな野犬が鉄条網を越えて入ってこようものなら、捕虜たちはとびかかって犬を引き裂き、生で食べたものだ」 氏はこの飢えを起点に、培養肉の生産研究に生涯を捧げた。 ダメ押しとして、堀場製作所の創業者堀場雅夫氏が生前語っていた戦時下の地獄を紹介してやった。 「国が極限まで窮したことが本当にわかるのは、街から犬が消えたときです。終戦間際も、牛、馬、豚、鶏がなくなり、最後に犬が消えました。…その2ヵ月後に日本は降伏したんです」 メンバーにドン引きされてしまった。 けど、犬がタンパク源という地獄を経験した先達からすれば、AIやITが食糧に絡むこと自体、飽食ボケ以外の何物でもないと思うのである。
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