511.焼き芋トリップ(2011.3.14掲載)
先日、銀座三越地下2階に店舗を構える焼き芋専門店「cadeau de CHAIMON(カドー ドゥ チャイモン)」を訪ねた。 華やかな売場のおしゃれなショーケースに敷き詰められた石の上に、品種別の焼き芋が鎮座していた。いざ花の銀座の焼き芋を吟味せんと、鹿児島県種子島産の「甘蜜安納」を1本買った。100g368円。1本250gだったから920円。 焼き芋1本920円ですぞ! けっこうな衝動買いに立ちくらみを覚え、エレベーターホールの椅子でしばしクールダウン。甘蜜安納を手にしたまま40年前にトリップした。 ろくなおやつがなかった昭和40年代前半。町内にリヤカーで行商に来た石焼き〜いもが無性に食べたくなって母親に100円をおねだりした。4個買えた。 くるんだ新聞紙越しの温もりが、今でも両手に残っている。 その焼き芋をほくほく頬張っていると、祖母がさらに30年遡った戦時下の思い出を語り始めた。校庭を耕して薩摩芋を植えたこと。芋の茎もご馳走だったこと。戦争末期には松の根油同様、薩摩芋アルコールを戦闘機の燃料にしたこと。 傍らでこの話を聞いていた祖父が、さらにさらに200年遡った享保年間のうんちくを披露してくれた。「甘藷先生」こと青木昆陽が、飢饉対策として薩摩から取り寄せた種芋を江戸で栽培したこと。栽培が軌道に乗ると身近な食料として定着し、ふかし芋の行商が現れたこと。焼き芋屋は幕末になってやっと出現したこと。 「栗(9里)より(4里)うまい13里、ほっこり、ほっこり」 祖父が行商の呼び声をまねするところで記憶は途絶え、トリップもおしまい。 詮無い話ではあるが、4個で100円の芋と、校庭の芋と、銀座の芋を食べ比べてみたくなった。920円の芋は、平和と繁栄の味かな。 ちょっと恥ずかしかったが、エレベーターホールで思い切って甘蜜安納にかぶりついた。トリップのせいで胸がつかえて苦しかった。 思い出と焼き芋をごっくん飲み込んで、銀座を後にしたのだった。 ================================================================ チャイモンの運営母体は、白ハト食品工業株式会社です。
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