1. 君をタコウインナーの刑に処す (2001.01.20掲載)
君をタコウインナーの刑に処す タコウインナーには想い出がある。 小学校一年生の遠足のこと。道後公園での昼食時間、お弁当箱のふたを開けたままトイレに行った山本君のお弁当を、さすらいの犬が食べてしまったのだ。 「みんな少しずつおかずを分けてあげなさい」 担任の森先生の言葉に、涙ぐむ山本君の顔が笑顔に変わった。その時、私が提供したおかずが大好きなタコウインナーだったのだ。 山本君のお弁当箱の中で、燦然と輝く私のタコウインナー。合成着色料たっぷりのサイケな赤は遠くからでもよくわかる。食べそびれたのは残念だが、友情の証としては最高の贈り物だろう。 その日から、私はタコウインナーの赤を見るたびにこの日のことを思い出す。もしあの時、山本君にあげたウインナーが、粗挽きポークやシャウエッセンなどのホンモノ志向系中間色のそれだったとしたら、こんな風に記憶のランドマークにはならなかったと思う。天然志向もいいが、ウキウキの遠足に顔色の悪いタコウインナーじゃ、まずいだろう。 ところで、いまも真っ赤なウインナーは大手ハムメーカー二社から発売されていて、シャウエッセン系に押されながらも売り場で出番を待っている。 原材料表示を見てみる。 赤色三号、赤色一〇二号、アナトー、カルミン酸…。なるほど、おしゃもじおばちゃんの添加物批判をかわしながらも、いい色を出そうとする企業努力の跡が見える。 とりわけカルミン酸は注目の色素だ。これは、メキシコあたりのサボテンに生息するエンジ虫の雌から抽出されるという不思議な色素。そういやタコウインナーも、「国籍:メキシコ」って感じの面構えである。うん、ソンブレロとポンチョをまとったメキシコ人「ホセ・ロドリゲス」なんてネーミングもいい。ラテン系の食べ物だったんだ、タコウインナーって。 そうだ、これ以上「ハレ」の日を演出できる食材は他にない。高度経済成長期の終焉とともに忘れてきたタコウインナーを、ぜひとも復活させようではないか。着色料がどうした。添加物がなんだ。そういうことじゃなくて…。 君をタコウインナーの刑に処す。
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