64.水の国(2002.04.15掲載)
早すぎる桜前線と度重なる大量黄砂を、異常気象の前触れではないかと危ぶむ向きが多い。冷夏か猛暑のどちらかだと。冷夏なら米不足、猛暑なら水不足の年を思い出す。水不足は平成6年。ダム底の朽ち木が顔を出し、給水時間は朝の5時から9時の4時間だけ。停水時間中に蛇口をひねると水道管が破裂すると脅され、ミネラルウォーターで歯を磨いた。庭の水まきは非国民、洗車にいたっては村八分の掟が待っていた。 アルピニストの野口健氏が、「山からおりると、街のにぎやかさ、文明のありがたさ、人のあたたかさが身にしみる」と言っていたが、山に行かなくても水のありがたさが身にしみた。意外なところでは、ガラスコップの良さを再認識したりもした。食器洗いの水がないため、ほとんどの喫茶店が紙コップ、紙皿でのサービスに切り替えたのだ。紙コップで飲む水は、どんなに冷えていても生ぬるい気がした。 職場には、多方面の方々から陣中見舞いのミネラルウォーターが何ケースも届いた。ありがたかった。意外な発見もあった。ヨーロッパ産のミネラルウォーターでだしを取ると、だし汁が白濁したのだ。味に異常はないのだが、中途半端なミルクティー状態。硬度や酸素含有率の違いに起因する現象だと思うが、ヨーロッパではかあちゃんの味噌汁が作れないかとちょっとだけ不安になった。 日本料理は水の料理、中華料理は火の料理。職場の中国人が言っていた。「日本には、雨や水に関する表現が異常に多い」と。ふむふむ。海幸山幸を生食することの多い日本料理は、大量の水でもって菌数を制御している。そして、その山幸はもちろん、海幸に至っても雨水が流した土壌が海を肥やすおかげで豊になる。もちろん主食の米も大量の水がもたらす大地の恵みだ。今年は大丈夫か。 日曜日の新聞に、「世界60億人のうち12億人は安全な飲料水を確保できず、水が原因で年間500万〜1000万人が命を落としている」とあった。お天道様には従うしかないが、8年前の渇水訓を思い出し、盛夏を迎えんと心するのである。
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