1023.本のまくら(2021.6.7掲載)
コロナ禍で増えたリモート講演もなんとか数をこなし、ちょっとだけ慣れてきた感がある。 小道具パフォーマンスや試食や実演ができない分、話芸が磨かれたのかな。 ただ、まくらで聴衆のテンションが探れないのが難儀である。 まくらの時事ネタや小噺で客の反応を見てその日の演目を決めるという噺家さんを見習ってきたのだが、リモートだとリアクションや空気感が全く伝わってこない。 だから手探りで話を進める。やっぱりまくらは大事。 ふと、紀伊國屋書店新宿本店が実施した「ほんのまくらフェア」のことを思い出した。 おすすめの文庫本にオリジナルのカバーを掛けて書名も作者もわからない状態にし、そのカバーに本の書き出し(まくら)を印刷。まくらの一文だけで本を買ってもらうという仕掛けなのだ。 CDの「ジャケ買い」のような購買心理が数行の文章で湧き起こるのかと心配したが、これが意外と好評。1日平均340冊以上を売り上げたという。 その中で最も売れた本は穂村弘の「求愛瞳孔反応」で、まくらは「あした世界が終わる日に一緒に過ごす人がいない」。たしかに、続きを読んでみたい。 ならば私のお薦めまくらを3冊。 「きらめく季節にたれがあの帆を歌ったか つかの間の僕に過ぎてゆく時よ」 …寺山修司「われに五月を」 「しずかな肩には声だけがならぶのでない 声よりも近く敵がならぶのだ」 …石原吉郎「石原吉郎詩集」 「それで、お金のことはなんとかなったんだね?とカラスと呼ばれる少年は言う」 …村上春樹「海辺のカフカ」 はたして手にとってもらえるかな。 悪のりして食品パッケージでも応用してみたくなったが、中身がわからない食品は売れないし、一括表示がないのはまずい。 まあ、調理例の写真をおいしそうに載せるというパッケージの王道をまくらとするしかないと思う今日この頃である。
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