1029.本当の大黒柱(2021.7.19掲載)
昭和レトロブームで、新しい柱や家具を黒光りさせて古く見せる加工屋さんが大いそがしだという。 アンティークフィニッシュとかエイジングとか呼ばれるこの手法、京都桂離宮の再建では屋根裏にたまった400年前のホコリを硫酸と共に柱に塗り込み、時代感を再現した。 夜の街でも、アンティークフィニッシュで昭和の雰囲気を醸し出す飲食店を多く見かけるが、味のレベルは総じて低い。「隠れ家」「和のおもてなし」などのコピーにつられた若者たちが、「懐かしい〜」「なんか落ち着く〜」などと浮かれている。 ちっとも懐かしくなんかない。 ひなびたレトロ調の家具や、たそがれた古障子なんかに囲まれると、昔の貧乏時代を思い出して哀しくなってしまう。 先日、昭和40年代を過ごした生家を取り壊すということで、40年ぶりにその最後の勇姿を拝みに行った。 懐かしの場所に立ち「この通りこんなに狭かったっけ」とか、「大きくて怖かった庭の池がすごく小さくてびっくりした」などとコメントするパターンがお決まりだが、現実は違っていた。 「こんな粗末な家に住んでいたのか」 ロバのパンのテーマソングが「チンカラリンロン」とこだました暗い路地裏。 スポンジでできた目張りですきま風を防いだ斜め障子。 北東の角までギシギシ廊下を夜ごとホラーな冒険行だったおばけトイレ。 思い出は美化され昭和レトロの輝きを放っているが、現実は暗い土壁とぎりぎりの暮らしばかりが目について、泣けてきた。 この話を知人にすると「まだ甘い」と諭された。 ある川の土手の緑地帯に建つ違法な家に住んでいた彼。家庭訪問で担任の先生が来ると、たいてい顔が引きつっていたという。 緑地帯の巨木を支えにして建つその家、当然ながら中に入ると正面にその巨木が鎮座している。 「これ、うちの大黒柱ですけん」 ぽんぽんとその木を叩く父親。 担任教師の顔は、ひきつったままだったに違いない。
\\\\
|
column menu
|