1095.探索の旅(2022.11.14掲載)
高校時代の3年間、ひたすら通い詰めたお好み焼き屋さんがあった。 「風流」という名のその店は民家の一部を店舗にし、84歳のおばあちゃんが一人で切り盛りしていた。 広島風で焼き始めて関西風に仕上がるというおばあちゃんの焼き技は絶妙な旨味を引き出し、どこの店にも真似のできない唯一無二の存在だった。三日とあけずに食べ続けた。 年齢に勝てず、おばあちゃんが店を畳んだのは今から35年前のちょうど今頃。そして、その直後から「風流」に匹敵するお好み焼き屋さん探しが始まったのだ。 チェックポイントは5つ。 1.小汚い民家の一角を店舗にしている。 2.厚い大きな鉄板で、割り箸のかわりにヘラを常備。 3.トイレは家のものを共用。 4.主人自らが焼く。 5.そば入りの広島風で焼き始め、できあがりはしっかり固めの関西風。 これがなかなか見つからない。「古き良き時代の美化された味」というセンチメンタル調味料を差し引いても、5項目全て揃う店は探索35年目にして未だ見つかっていない。 そんなある日のこと、仕事で委託先の工場の査察に出かけた際、この探索5項目が工場のチェック項目と同じであることに気づいた。 求める方向は異なるが、1は工場建物、2は生産設備、3は衛生管理、4は製造マニュアル、5は商品設計に相当。5項目すべてが揃う工場なら、安心して製造を委託できる。モノ作りの真理は同じなのか。 昼食時、その工場の社長が経営するという焼き肉さんに行った。ピカピカの店で、各テーブルに排気付きの網があって、トイレも小じゃれていて、自分で焼いて、タレはしっかりとニンニクが効いていた。 探索の旅は、まだまだ続くのである。
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