1098.万葉人のウナギ(2022.12.5掲載)
料理屋で天然物のおいしい魚を食べる度に思うことがある。 それは、「万葉人が食べた魚も今と同じ味だったのかな」ということ。 畜肉や野菜、果物は品種改良と飼料、肥料の進歩で日々おいしくなっているから千年の味の違いは歴然。けど、天然魚は海水の富栄養化による餌の変化が多少あったにせよ、味は今と同じではなかったか。 とすると、他の農畜産物が野生種に近い味だったわけだから、万葉人にとっての魚介類は、現代人が感じる以上においしい食材だったに違いない。 そこで書物をひもとき、古代人の魚介系食事情を確認してみた。 卑弥呼の夕食…クロダイとアワビの刺身、サザエの壺焼き、ゆでダコとうりの酢の物、モクズガニのたたき汁、焼きなす、ハモ飯、まくわうりのデザート。 聖徳太子の夕餉…強飯(蒸したご飯)、熱汁(さといも、わかめ、ねぎ)、煮大豆、アユの塩焼き、ごぼうの煮物、フナの醤煮、だいこんの豆醤漬、蘇、塩。 大伴家持の食膳…ご飯、醤、塩、里芋と青菜の汁、焼きブリ、大根とアワビの煮物、生姜の醤漬、ウリの粕漬、煮豆、酒、栗、胡桃、枝豆、柿、山芋、里芋、鴨肉、鹿肉。 なるほど、貴人はおいしい魚を食べてたんだな。 また、万葉集の編者といわれる大伴家持には、ウナギを詠んだ歌がある。 「石麻呂に吾もの申す夏痩せによしといふものぞむなぎとり召せ」 大伴家持が夏バテした石麻呂にウナギをとって食べるよう勧めた歌で、「むなぎ」はウナギのことである。旬の天然ウナギは脂が乗っていて胸のあたりが黄色いことから、こう呼ばれたらしい(ウナギの語源)。 なるほど、かなりおいしいウナギを食べていたに違いない。 小生、アナゴ文化圏で育ったせいか、おいしい天然ウナギはいまだに出会ったことがない。 家持さんに倣って、むなぎで年を越したいと思うのである。
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