1111.新幹線(2023.3.13掲載)
この時期になると、新幹線で初上京する少年たちを描いた1991年のJR東海のCMを思い出す。 BGMは尾崎豊の「I Love You」。高校生4人組が車内で席を向かい合わせにしてはしゃいでいたが、品川あたりで高層ビル群に囲まれ始めた新幹線がスピードを落とすと、少年たちは黙りこくってしまう。 これから始まる都会暮らしの象徴ともいえるビル群に圧倒されつつ、郷里との惜別、新生活への期待なんかが去来して複雑な表情を残したままCMは終わる。 私も、23歳で同僚3人と新幹線上京した1987年に同じ経験をした。浜松うなぎ弁当を食べ終えた歓談の中、有楽町の高層ビル群で沈黙は訪れた。 「こりゃ大変なところに来てしまった」 新幹線を降りても、その切符で山手線に乗れることなんか知らないものだからホームでオロオロ。やっと山手線にたどり着いても人波についていけず、大海でもまれる木っ端船だった。 東京生まれの人には想像できない心理だと思うが、不安を抱えて新幹線の車窓から見た初めてのビル群は、たぶん一生忘れないと思う。そんなしょっぱい旅はやっぱり新幹線。上京の儀式としては最高ではないか。 しかし、現在はほとんどの新入社員が飛行機で上京し、ドキドキオロオロする間もなくオフィスにたどり着いてしまう。それ以前に、修学旅行だって飛行機なのだ。ディズニーランドの袋を抱えて羽田空港を闊歩することなんて、いつでもできるのに。 ところで、私の名前には「幹」という字が使われているから、少なからず新幹線との縁を感じている。母は昔、「新幹線が開業した年に生まれたから」と言っていたが私の出生は開業より1年早く、これはたぶん後付け。 とにかく初上京には新幹線かおすすめなのである。
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