1119.減塩箸(2023.5.8掲載)
親子三代醤油好きである。 祖父は漬物に醤油をかけた。そして父はカレーに、私は塩鯖に醤油をかけ、そのたびに母の小言を浴びた。 「味付いてますから、塩分の摂りすぎです」 それでも祖父、父、私が、食卓で栄久庵憲司デザインのキッコーマン醤油ボトルのパス回しを控えることはなかった。 我が実家に限らず、日本人は総じて醤油好きである。醤油だけが悪者ではないが、何にでも醤油をかける食習慣は、高い食塩摂取量とそれに由来する高血圧の一因とされている。 ある疫学研究の結果によると、日本人の食塩摂取源は、醤油、漬物、調味料、塩干魚、味噌汁、つゆの順であることが解明された。まるで我が実家の食卓ではないか。 また同研究は、1日1gの減塩で血圧が1mmHg減少すると報告している。一見わずかだが、国民全体の血圧が2mmHg減少しただけで、日本における循環器疾患の年間死亡者が2万人以上減少すると推測されているのだ。 わかっちゃいるけど、塩分はなかなか減らせない。醤油はおいしいし、塩気のない食事は味気ない。 ここで朗報。明治大学総合数理学部の宮下教授のチームが、塩味を強くする箸を開発したのだ。この箸には弱い電流が流れていて、口に入れた食品に含まれるナトリウムイオンの働きを変化させ、舌の塩味受容体を刺激するという。 結果、塩味を1.5倍強く感じるようになり5割の減塩が可能となったのだ。 この研究をヒントに、米国の学生が、味蕾を刺激して甘味を感じさせる構造を備えたスプーンを開発した。「シュガーウェア」と名づけられたこのスプーンは、下側に分子の層でコーティングした突起がいくつかあり、甘味を感じる味蕾細胞を刺激するらしい。 食器の力で塩分や糖分を減らす画期的な発明に感心しつつ、「だしを感じる椀」なんかができたら、かつお節の売上に影響してしまうと心配した次第である。
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