1118.医薬と食品(2023.5.1掲載)
製薬メーカーに勤務する知人が、こんなことを言っていた。 「今ある医薬品の99%は、50年前には世の中に存在していなかった」 なるほど、こりゃ食品とは世界が違う。 かつお節は400年前、納豆は800年前、味噌は1000年前からこの世にあったわけだから、医薬品=新薬と言ってもいいくらいの激しい世界に違いない。 そこで、医薬品と食品の商品開発を比べてみた。 まず開発費。医薬品は、20年近い歳月と約500億円の経費をかける大プロジェクト。対する食品は、半年で100万円。下町の惣菜屋にだって新商品は出せる。 次に研究開発の流れ。医薬品は、学術研究を突き詰めた先に商品の姿が見える。例えばアステラス製薬は、筑波山麓の土壌細菌が免疫抑制物質を生成することを発見。その物質を「プログラフ」という商品名で発売し、臓器移植になくてはならない医薬品に育て上げた。2004年の全世界売上1300億円。 対して食品は、基礎研究よりおいしさ追求。化学式なんてどうでもいいから、安くておいしいものを作ればいい。 そして特許。今はやりのジェネリック医薬品は、特許切れの商品を中小の製薬メーカーが安価に製造販売するものであるが、500億かけた新薬が20年後の特許切れで半値になるのは、先発メーカーにとって納得のいかないことだと思う。 対して食品は、商品寿命が短いから特許が申請されてから登録されるまでの5、6年の隙間をついて類似品を発売する。特許が成立する頃にはブームも終わって皆撤収。いわば逆ジェネリック。これはこれで先発メーカーは悲しい。 医薬品と食品。平均年収的にも対極にある両業界だが、評論家が共通点を語っていた。それは、リスク。 「クレーム、回収、訴訟など、参入リスクの最も高い業界が医薬と食品」 確かに、雪印乳業はクレームで一夜にして1500億円の内部留保金を吹っ飛ばした。 リスクと戦いながら新商品開発に精進する日々なのである。
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