1166.さまざまな付加価値(2024.4.15掲載)
庭園での演出に、2万円の追加料金を取る料亭が京都にあるという。 夕闇が迫る頃、美しい女性が池のほとりにぼんぼりを置くと、その柔らかな光が水面を走って座敷に届き、庭の光景が一変する。この一瞬に2万円。 贅沢な話だが、客が絶えないというのだから暴利ではなく付加価値である。道楽ではなく経済である。 ならば私にも、2万円かけて味わってみたい付加価値がある。ただし、小説の世界ではあるが…。 それは、藤原伊織のハードボイルド小説「テロリストのパラソル」に登場する新宿の「吾兵衛」というバーのホットドッグ。 注文があってからキャベツを切る。フライパンにバターを溶かしてソーセージを軽く炒め、千切りキャベツを放りこんで塩と黒コショウとカレー粉をふりかける。キャベツをパンにはさんでソーセージを乗せ、オーブンレンジで加熱。頃合いを見て取りだし、ケチャップとマスタードをスプーンで流す。 1996年にドラマ化された際、萩原健一が吾兵衛のマスター役でこのホットドッグを作っていた。めちゃくちゃに渋かった。新宿まで2万円の交通費をかけて食べに行く価値は十分にあると思った。 ところで、食品の場合は原材料費に上乗せする付加価値であるが、「原価なしで付加価値のみ」という商品がある。それは占い。 作家の角田光代さんが、取材で10件の占いを受けた。名前と生年月日や時間、生まれた場所のみを伝えた場合、手相、四柱推命、占星術などの占い手法の違いで結果に差が出るかどうかを検証する企画である。 多くの占いの基盤が統計学であることを考えると当然かもしれないが、その結果はほとんど同じになった。ただし、値段は3000円から2万円までさまざま。「人が目に見えないものを買ってもいいと思える金額の幅」と角田さんは評していた。 ぼんぼりの光に2万円、ショーケンのホットドッグに2万円、迷える未来に2万円。 付加価値のかたちはさまざまである。
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