1182.松山容子先輩（2024.8.5掲載）

　実は、わが実家の納戸にボンカレーのホーロー看板が眠っている。 　しかも、ボンカレーのレトルト袋がまだ透明だった１９６８年頃の初期型で、オークションにかければ２０万円前後の値が付くらしい。 　もちろん投機目的で温存していたわけではなく、今から４０年ほど前、近所の八百屋が改築する際、ゴミに出していたのを父が拾ってきて捨てられずにいただけである。 　というのも、ホーロー看板のモデルである松山容子さんが私と同じ高校の出身であり、捨てるのはしのびないと持ち続けた結果の２０万円なのだ。 　水原弘さんのアースと並んでレトロネタにされる松山容子さんのホーロー看板であるが、当時は大塚食品営業活動の輝ける軌跡ともいえるランドマークだった。 　なにせ世界初のレトルト食品。かけそば１杯が６０円の時代に１個８０円のボンカレーは今ひとつ反応が鈍く、問屋筋もなかなか扱ってくれない。そこで大塚の営業マンは町の小さな八百屋、肉屋、乾物屋を訪問し、ボンカレーを置いて回った。そして、商談成立の証としてホーロー看板を打ち付けたのだ。その数９万５千枚。 　ホーロー旅を重ねた結果が実を結び、発売から５年後の昭和４８年に年間１億食を突破。平成元年までの累計は４３億食にも達した。まさに、昭和を代表する加工食品である。 　レトルトカレーをホーロー看板とともに全国に拡げた大塚マンの意地は、その後、カロリーメイトやポカリスエットの営業に受け継がれ、オンリーワン商品を育てていった。 　その松山容子先輩バージョンの初代ボンカレー、沖縄に行けばどこのスーパーにも並んでいる。 　最新版のボンカレーと比較分析すると、かなりあっさり味の初代版。酷暑の沖縄にはあっさりボンカレーが合うのかもしれない。 　そんな沖縄の夏を思いながら、そっと納戸の扉を閉めたのであった。