1199.沖縄料理
基礎研究の熾烈な競争において、予算の少ない地方大学や中小企業が世界をリードするには2つの方法しかない。 1つは、一個人の天才的ひらめきで理論物理の論文を書くこと。もう1つは、マニアックな食材をテーマに化学系の実験をすること。 前者は、そんな天才が地方に埋もれているはずもなく却下。よって後者。誰も手を付けていない伝統食品を化学的に考察すると、世界初の論文が書ける。書いて投稿すれば、審査員もその食品のことがよくわからないから、比較的楽に受理されるのだ。 例えばかつお節。世界中で、かつお節を食文化として伝統的に製造しているのはモルジブと日本だけ。さらに発酵するタイプのかつお節(枯節)となると日本だけだから、論文上のライバルは数名である。 もっとすごいのが「豆腐よう」。豆腐ようは沖縄の伝統食品で、沖縄特有の水分の少ない堅豆腐を麹と泡盛に漬け込んだもの。チーズのようなねっとり感とコク味が絶品だが、本州ではほとんど見かけず、研究テーマとしては琉球大学農学部の独占状態。 そんな研究の新ネタを探すべく、沖縄料理の食材を調査したことがある。 ミミガー(豚の耳皮)、アンダンスー(豚味噌)、クーブイリチー(昆布の炒めもの)、ナーベラーンブシー(ヘチマの煮物)、どるわかし(田芋と茎の豚脂仕上げ)、らふてえ(豚の皮付き三枚肉煮込み)、みぬだる(豚ロース肉の黒胡麻揚げ)等々、奇天烈メニューの宝庫、研究素材の山。 しかし、全てにおいて超脂っぽい。現地の知人は平気で全皿完食したが、四国人でしかも60代の胃ではとても消化できない。 むりむり胃に押し込んだ午前2時。その翌朝には胸やけで研究素材を探すモチベーションなど消失してしまい、失意の帰還となったのである。 沖縄の食材は沖縄の研究者にお任せしよう。脂の量と酒席の開始時間についていけない。 沖縄では、夜11時宴会開始がふつうなのだから。
\\\\
b
column menu
b