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江戸落語によく登場する「様子がいい人」。 お洒落だけど派手ではなく、安物でもなく上品。立ち居振る舞いにも風格と美が宿っている。 そんな貴婦人と、歌舞伎座の食事処で、幕間に幕の内弁当を食べた。 たわらむすび、炊き合わせ、牛しぐれ煮、もずく、がんもどき、さつまいも、玉子焼き、鮭、つくね、高野豆腐、かまぼこ、さつま揚げ、漬物に、吸い物とよもぎ饅頭がついていた。 全ての食材は芸術的に盛りつけられ、かつおだしが旬の味を上品に引き立てる。味、外観、ボリューム全てが完璧。幕の内弁当に感動したのは初めての経験だった。 たまたま相席となった、80歳代とおぼしき様子がいい白髪の貴婦人のおかげかもしれない。 凛とした佇まいと春のような薄紅色の着物が美しく、思わずお茶を入れて差し上げた。 「どうもありがとうございます」 優しく頭を下げる貴婦人に、なぜかドキドキしてしまった。年齢を超えた色気を感じた。この気品と慈愛はどのような生き方をすれば身に付くものなのですか。一人歌舞伎見物の幕の内弁当はどんなお味ですか。 先に食事を終えた私の「お先に失礼します」の声に深々と頭を下げた貴婦人の神々しさは、四代目尾上松緑の弁慶なんかよりずっと魅力的だった。 第3幕、花道を下がる松録に「音羽屋」の声がかかった。 第4幕、「様子がいい人って、本当に居るんだ」と心の中でつぶやいた。
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