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「形容詞に弱い男」という二つ名を持つ友人がいる。「暑い」「寒い」「高い」「暗い」「狭い」…。 言ってしまえば単なるワガママ男なのだが、自分なりに辛抱した後、絶叫しながら助けを求める憎めない男でもある。 そんな友人が、苦手な激辛料理を中途半端にガマンして食べた後、必ず「熱い辛い痛い~」と雄叫ぶ。「熱いのか辛いのか痛いのかはっきりしろ」と突っ込まれそうだが、この表現、実はすごく正しい。 辛味は味ではない。唐辛子の辛味成分「カプサイシン」は味覚細胞を刺激するのではなく、温覚や痛覚など味覚以外の受容体を活性化する。だから、熱いような辛いような痛いような感覚なのである。 だから、膜を通過する際の電気信号を検知する「味覚センサー」という分析機器では、辛味を測定できない。 この物理的な味覚が繊細な和食となじまず、日本における唐辛子の消費は今ひとつ。唐辛子の国内消費量は年間約5000トン前後。ちなみに韓国は27万トン。カプサイシンのダイエット効果をPRしたくらいではとうてい追いつかない数字である。 そこで登場したのが辛くない唐辛子。1985年ごろタイから導入した辛い唐辛子の中から偶然辛くないものが発見され、育種により品種を固定。「CH-19スイート」と命名された。 この辛くない唐辛子にも通常の唐辛子と同様の脂肪燃焼作用があり、ダイエット効果も検証済み。カプサイシンと構造が類似した活性物質「カプシエイト」の研究も活発化している。 2004年6月に、この「CH-19スイート」と「カプシエイト」に関する知的財産所有権を、味の素が森永製菓から購入したのだが、その後の展開はあまり耳にしない。 カラムーチョ、豚キムチ、ハバネロなど、定期的に訪れる唐辛子ブーム。「熱い辛い痛い~」と叫ばなくてすむ唐辛子商品が発売されたとして、それはそれでちょっと寂しい気もするのである。
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