177.朝顔トリップ(2004.7.12掲載)
先週テレビで、「東京は入谷の鬼子母神で朝顔市開催」というニュースが流れていた。朝顔市は毎年7月6日から3日間、促成栽培した朝顔が下町に万朶の花を咲かせる夏の風物詩であるが、このニュースを聞くたび、私の心は暗くなってしまう。 17年前の7月6日、上京してまだ3ヶ月。先輩に叩き込まれた抜け道通勤路が全世界だったカントリーボーイは、その日も夜8時頃看板車に乗り込み、御徒町の職場から川口の寮を目指した。その抜け道が歩行者天国と化し、50万人の人出と12万鉢の朝顔で埋め尽くされているとも知らずに…。 抜け道しか知らないということは、この場合かなりの悲劇である。全く応用が利かない。どの幹線道路に戻るべきかさえわからず、見知らぬ土地に吸い込まれていった。這うようにしてたどり着いた寮の時計は午前1時。我が人生にとって空白の5時間は異次元への小旅行か、はたまた念願かなったプチ失踪だったのか。 朝顔がきっかけの小旅行を、実はもう一度経験している。27年前、デパートの中国フェアで買ってきたヒマワリの種に庭で収穫したアサガオの種を砕いてブレンドし、無理やりオリジナル珍味を作って食べたのだ。しばらくして世界が回り始めた。やはり5時間くらい酩酊していた。 朝顔の種にはリゼルグ酸アミドというLSDの主成分に似た幻覚物質が含まれていて、30g前後で完全にトリップできるらしい(LSDはリゼルグ酸ジエチルアミド)。中学生にして初ドラッグ。びっくりした。 ふつう朝顔とくれば夏の朝、蝉しぐれ、観察日記。しかし、私が朝顔から連想するのは2つのトリップ事件。 トリップの季節がやってきたのである。
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