235.スタンダード(2005.9.12掲載)
先日、ひょんなことから、ある団体職員を対象とした小論文コンテストの審査員を仰せつかった。テーマは「食糧自給率の向上」で、総数約300本。審査といっても本戦に残す30本を選ぶ予備審査で、いわば下請け審査員である。 渡された採点シートには、審査委員長である元新聞記者が作ったチェックリストが表になっていて、5点満点で記入するよう指示があった。 チェックポイントは、内容(素材選び、理論の一貫性、独自性)、構成(段落、事実と考察の書き分け、まとまり)、文章(誤字脱字、文法、原稿用紙の使い方)の全9項目。 なるほど、これらを満たせば小論文でいい点が取れるのか。 審査委員長が語るには、「小論文は論理的思考力や性格が表れ、仕事能力の高さが総合的に判断できる」らしい。文章のスタンダードである記者OBが言うのだから間違いない。どこでも通用するスタンダードな文章力が羨ましい。「どこでも通用するということは、それだけ個性がないということ。30年の記者生活で最大公約数の文章しか書けなくなった」と、審査委員長は謙遜したが…。 話し方でもスタンダードを持つ人は強い。話し方のスタンダードを身につけたNHKのアナウンサーは、どこの局でも通用する。だから民放は、「転勤がなくなり、年収が上がる」という殺し文句でNHKアナウンサーをゲットする。 書くスタンダード、話すスタンダードとくれば、最後は読むスタンダード。これは、世の中の流れを読む商社マン、社会の数字を読む銀行マンあたりだろうか。どちらもモーレツな仕事量に裏付けされた読解力で仕事をこなしていく。 読み、書き、話すのスタンダード。商社マンと銀行マンと新聞記者とNHKアナで世の中まわってしまうのか。手に職を持つ技術者よりも、スタンダードを身につけたビジネスマンの方が先頭を走る昨今。 小論文の腕をみがくのも一策かもしれない。 原稿用紙に埋まりながら、スタンダードを身につける術に思いを巡らせたのである。
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