238.意外な用途(2005.10.3掲載)
開発担当者の意図に反する意外な用途でヒットした商品は、意外と根強い。それは、用途を開拓した消費者の絶大なる支持に支えられているからであり、マーケティング手法が発達した今日でも、開発者は謙虚な姿勢で消費者の声に耳を傾けなければならないのだ。 意外な用途の最も有名な事例は、ニトログリセリンの狭心症治療薬としての利用であろう。最近まで私は、「心臓の中で小さな爆弾がはじけて血管を広げている」と思い込んでいたが、どうやらニトログリセリンから遊離した一酸化窒素(NO)の働きで血管が弛緩するらしい。このメカニズムを解明した研究者3人が、1998年にノーベル医学・生理学賞を受賞している。 同様のメカニズムで開発された狭心症治療薬に、「バイアグラ」がある。開発途中の臨床試験の際、服用期間が終わっても患者が錠剤を手放さず、ニヤニヤしていたことから意外な用途が発覚。勃起不全治療薬へと方向転換することになる。消費者の声に耳を傾けたおかげで、現在の売上2,000億円。 他にも、鼻炎薬を飲むと眠くなるというクレームから、その成分(塩酸ジフェンヒドラミン)に注目し、エスエス製薬が睡眠導入薬「ドリエル」を商品化した。 食品の事例では、筒状の容器に入ったボトルガムのヒットが有名である。当初、ロッテの開発担当者は食卓や居間にボトルを置き、家族全員で噛んでもらう食シーンを想定していた。だからボトルの開口部を大きくし、簡単につまめるように一粒一粒を包まないスタイルにした。ターゲットは主婦。 しかし、実際の購買層はサラリーマンとプロのドライバーだった。デスクで噛む、イライラして噛む、クルマで噛む。こんな予期せぬオフィス需要でガム市場は爆発し、昨年の市場規模は1,881億円と史上最高を記録したのだ。 また、最近の意外なヒット商品に寒天があるが、寒天の意外な用途は口紅である。口紅に寒天を配合すると唇から蒸発した水分を寒天が取り込み、膜を作って顔料が流出しないというのだ。これを商品化したのが、カネボウの落ちない口紅「テスティモジェリーステイ ルージュ」である。 まぁ、最初から思いつくような意外な用途は意外じゃないわけで、そのへんのパラドックスは悩ましいところだが、とにかく過去の事例を糧に、商品開発に励むしかないのである。
|
column menu
|