331.トウモロコシの奪い合い(2007.8.6掲載)
今から7年前、「ミュージカルは、なぜセリフを歌わなければいけないのか」という積年の疑問を解決するために、「オペラ座の怪人」を観に行った。 以来、はまってしまって計8作品。つい最近も、ミュージカルの最高峰と言われる「レ・ミゼラブル」に涙腺を壊され、我を忘れてブラボー連呼。とにかくよかった。 で、疑問の答えとして会得したのは、「ミュージカルは芝居ではなく音楽だ」ということ。芝居という観点から捉えると会話が歌というのは確かに不自然かもしれないが、音楽にストーリーが付いたエンターテイメントと考えれば感動が素直に胸に染みる。 芝居か音楽か。 物事は常に2つの側面を併せ持つ。 トウモロコシのように。 本年5月、アースポリシー研究所のレスター・ブラウン博士が来日し、トウモロコシの2つの側面について講演された。 すなわち、「食糧かバイオ燃料か」。 トウモロコシは食糧として最も重要な穀物であり、日本は世界最大のトウモロコシ輸入国。飼料としてのトウモロコシがないと、牛乳も卵も牛肉も豚肉も鶏肉も生産できないのだ。そして、その大部分がアメリカからの輸入に依存している。 なのにアメリカはバイオ燃料ブームで、来年末にはアメリカで生産される穀物全体の30%近くが燃料生産に使われるらしい。だからトウモロコシの価格も約2倍に高騰してしまった。「世界のパンかごであるアメリカが、自動車社会の燃料タンクに変わりつつある」とレスター博士。 博士は警鐘を鳴らす。 「世界中の約8億台の自動車と、世界中の約20億人の貧困層の人々が同じ食糧資源を奪い合っている」 レ・ミゼラブルの主人公ジャン・バルジャンは貧しさに負け、一切れのパンを盗んだ罪で19年間牢獄に入れられる。 もしかすると、バイオ燃料欲しさにトウモロコシを盗んだ主人公が観衆の涙を誘う、そんなミュージカルが上演される日が来るかもしれない。 悪い冗談を想像してしまう昨今の食糧事情なのである。
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