372.開けなかったお弁当(2008.06.02掲載)
先日、職場の後輩の結婚披露宴に出席した。ジミ婚ばやりの今日、新婚旅行に対する執着もあまりなく「そのうち国内の温泉地にでも行きます」と新郎。確かに、それくらい肩の力を抜いていた方が、幻滅も失望も体感せずにすむ。成田で揉めたくない人のための、国内新婚旅行ブームが来るかもしれない。 くしくも、現在放映中の大河ドラマ「篤姫」準主役の小松帯刀(瑛太)が、妻ちかと義父を伴い霧島を訪れたのが日本初の新婚旅行ということになっている(1856年)。 ところで、国内新婚旅行の全盛期は、皇太子殿下と美智子さまご成婚の昭和34年から、ハワイに主役の座を奪われた昭和56年の間ではないかと思う。具体的にこの期間を挙げたのは、この23年間が、多くの新婚さんが利用した国鉄の伝説きっぷ、「ことぶき周遊券(後のグリーン周遊券)」の販売期間だったから。 鶴などの縁起物があしらわれた重厚な表紙に切符が綴られ、ホームで見送る親族、友人用に「ことぶき入場券」がおまけで付いていた。購入には印鑑が必要という国鉄の「一生に一度」的演出も奏効し、ヒット商品となった。多くの新婚さんが、ことぶき周遊券を手に国鉄に乗って熱海や宮崎を目指した。 昭和49年に結婚した100万組のカップルのうち、37万組が宮崎を訪れたというから、宮崎行きのグリーン車は新婚さんであふれていたに違いない。 一車両全部新婚さんというのもかなり濃いが、先日、それ以上に濃い体験をしてしまった。私が乗った車両の乗客全員が裏稼業の人たちだったのだ。一般人は私だけ。笑顔で座席指定を差配したみどりの窓口嬢が悪魔に思えた。 もちろん、何の危害もなかったのだが、その殺気と緊張感は半端じゃない。つかの間逃避行を気取って駅弁片手にグリーン車に乗ったら、逃げるに逃げられない報いを受けた。 その駅弁は、ついぞ開けることなく終着駅を迎えたのであった。
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