371.人にやさしい会話術(2008.05.26掲載)
月刊誌「発明」の2007年12月号で、NHK技研が開発した「早口のアナウンサーの言葉がリアルタイムでゆっくり聞こえるテレビとラジオ」を紹介していた。 基本となる装置は、声の質や高さを変えず、放送時間も変えずに会話を聞き取りやすくする「話速変換器」。話し始めや重要な部分(声のトーンが上がることで判別)のスピードを遅くし、単語と単語の間の「ま」を短くして画面との帳尻を合わせるのだ。 そもそも人間は30歳くらいから高い音が聞こえにくくなり、60歳を超えると全音域で衰えが始まる。また、はっきり聞こえたとしても音声理解速度が年齢と共に低下し、画面についていけない。1分間に400文字前後と、この40年で25%も早口になったアナウンサーの原稿を聞き取るのは、高齢者にとって至難の業なのである。 日常会話もまったく同じである。接待で得意先の60代社長と話をする時は、自身で話速を変換しなければならない。 始めゆっくり中ふつう、語間を詰めて時間内。 あとは音声理解速度を上げる会話内容である。すなわち、最も頭が回転していた時代のネタなら多少の早口でも高速で理解してもらえる。 例えば食ネタ。脱脂粉乳にクジラの竜田揚げ。渡辺の粉末ジュースに紅梅キャラメル。「野球は巨人、キャラメルは紅梅、ともに僕らの人気者(昭和26年頃のキャッチフレーズ)」。 とくりゃ、次は野球ネタ。先日ある酒席で、「巨人の王選手の前に背番号1をつけていた南村選手の親戚にお会いした」と話した瞬間、「それは南村侑広(ゆうこう)」と60代軍団に思いっきりハモられた。 究極は軍人ネタ。これは時と場合と相手によりけりの高難度。会話における登場回数の多い人物を挙げると、山下奉文、瀬島龍三、山口多聞あたりか。たまに、日露戦争の軍神広瀬武夫が登場するので要注意。「杉野はいずこ、杉野はいずや」という部下を探す広瀬中佐を讃えた文部省唱歌のフレーズが、団塊世代の脳裏に刷り込まれているらしい。 娯楽のない時代のネタは共通項が多く、自然、会話も盛り上がる。 話速変換器と世代変換器を駆使しながら、ネタについていくのである。
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