394.産地(2008.11.10掲載)
ブルーノート東京で渡辺貞夫氏のサックスを拝んできた。 ピアノとドラムとベースは若手の「ニューヨークカルテット」だったが、御年75歳のナベサダさんのリードで、テクニックの凄さを感じさせない、肩の力が抜けたいい演奏だった。ジャズど素人の私にもわかる音だった。 ナベサダさんは、よく「日本ジャズ界のリーダー」と言われ、「本場で通用する数少ない日本人」とされているが、実際にライブを見ると「出身地や国籍なんて音には全然関係ない」という当たり前のことを痛感する。 出自や来歴にこだわるのは、日本人の長所か短所か。 たぶん両方だと思う。 万世一系を象徴として崇め、心の拠り所とする伝統は長所。先代の偉業にすがり、無能な二世議員が意味なく跋扈する政治は短所。 地域産品を育成し、まじめに取り組む1次産業が評価される市場は長所。過度のブランド信仰で、産地偽装を誘発する気質は短所。 今年も食品の産地偽装が騒がしい一年だった。我が職場も、わずかではあるが仕入れ先の悪事をかぶるトラブルに見舞われた。 そんな産地偽装を化学の力で見抜く研究が進められている。 首都大学東京の伊永先生らは、農水産物中の炭素・窒素・酸素の安定同位体を調べ、産地を特定することに成功した。DNA鑑定では判別できない同一種でも、産地が異なれば安定同位体の存在比が変わってくるのだ。 安定同位体とは、同じ原子番号でありながら質量数が異なる兄弟のような原子。例えば、炭素の質量数は12だが、同位体炭素の質量数は13。 同じく窒素は14と15、酸素は16と18。これらの存在比を指紋のように捉え、産地を特定するのだ。 ウナギの国産、中国産、台湾産を比較すると、餌と飼育方法の違い(路地/ビニールハウス)で窒素の同位対比が、飼育地の緯度の違いで酸素の同位対比が変わるらしい。これらをデータベース化することで産地の特定ができるのだ。 すばらしい研究成果ではあるが、産地偽装の摘発という世俗的で泥臭い世界に最先端の化学を応用するのは、なんだか肩の力が入りすぎているような気もする。 ナベサダさんのように、もっと楽にアプローチしたいと思う今日この頃なのである。
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