457.コツコツ進化論(2010.2.15掲載)
小学生レベルの理科研究の場合、賞を取るための最大のポイントは「コツコツまじめにデータを取る」ことである。 朝顔の観察日記にせよ、おたまじゃくしがカエルに変身するスケッチにせよ、純粋な子供目線で根気よく記録されたデータだけが、審査員の胸を打つのだ。 大人になると、この「コツコツ」を端折ってしまう。なかなか辛抱たまらず、詰め込んだ知識を元に、要領と段取りの実験計画で最短距離を走る。科学の神様に申し訳ないと思いつつも、成果の皮算用に明け暮れる費用対効果の求道者に成り下がってしまうのだ。 ところが、73歳になってもコツコツデータを取り続け、2009年の京都賞を受賞された科学者がいた。米プリンストン大名誉教授のピーター・グラント博士と奥様のローズマリー博士である。 グラント夫妻は1973年から37年間、ガラパゴス諸島のダフネ島でガラパゴスフィンチという鳥の全個体1200羽にマーカーを付けて観察し続け、ダーウィン進化論の自然淘汰の実証に貢献したのだ。 1977年、大干ばつで餌が枯渇。わずかに残った硬くて大きな種子を割るため、くちばしが太めの個体だけが生き残った。メスは生き残りの中でもよりくちばしの太いオスと交配した。結果、干ばつを境にくちばしは平均5%太くなった。 1983年、平年の14倍という記録的な大雨でジャングルが発生し、小さな種子が豊作に。結果、小さめのくちばしを持つ個体が大繁殖。小さい種子を食べづらい太いくちばし個体は、約9割も減った。 どうやら、進化は一方向ではないらしい。 それにしても気の遠くなる時間軸。気の遠くなるコツコツ。 努力を尽くした者に幸運が訪れるというが、特異な気象条件に出会えたのは、まさにそういうことだ、とご夫妻。 食品をテーマにした研究も、きっとそうに違いない。栄養成分も機能性成分も、薬じゃないのだからゆっくり作用する。短期間で劇的な結果が出ることなどあり得ないのだ。 毎日朝顔を見つめたあの夏を思い出し、進化したコツコツで研究テーマに向き合いたいと思うのである。 ================================================================ グラント夫妻情報の出典は、2009年11月23日付読売新聞朝刊です。
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