462.むなぎ(2010.3.23掲載)
料理屋で天然物のおいしい魚を食べる度に思うことがある。それは、「万葉人が食べた魚も同じ味だったのかな」ということ。 畜肉や野菜、果物は品種改良と飼料、肥料の進歩で日々おいしくなっており、千年の味の違いは歴然。しかし、天然魚は海水の富栄養化による餌の変化が多少あったにせよ、味は今と同じではなかったか。 とすると、他の農畜産物が野生種に近い味だったわけだから、万葉人にとっての魚介類は、現代人が感じる以上においしい食材だったに違いない。 そこで、季刊誌「おたふく」2010年春号に掲載されていた古代人の食事メニューから、魚介類の食事情を確認してみた。 卑弥呼の夕食・夏…クロダイとアワビの刺身、サザエの壺焼き、ゆでダコとうりの酢の物、モクズガニのたたき汁、焼きなす、ハモ飯、まくわうりのデザート。 聖徳太子の夕餉…強飯(蒸したご飯)、熱汁(さといも、わかめ、ねぎ)、煮大豆、アユの塩焼き、ごぼうの煮物、フナの醤煮、だいこんの豆醤漬、蘇、塩。 大伴家持の食膳…ご飯、醤、塩、里芋と青菜の汁、焼きブリ、大根とアワビの煮物、生姜の醤漬、ウリの粕漬、煮豆、酒、栗、胡桃、枝豆、柿、山芋、里芋、鴨肉、鹿肉。 なるほど、貴人はおいしい魚を食べていたんだな。 また、万葉集の編者と言われる大伴家持には、ウナギを詠んだ歌がある。 「石麻呂に 吾もの申す 夏痩せによしといふものぞ むなぎとり召せ」 大伴家持が夏バテした石麻呂にウナギをとって食べるよう勧めた歌で、「むなぎ」がウナギのことである。旬の天然ウナギは脂が乗っていて胸のあたりが黄色いことから、こう呼ばれたらしい。 なるほど、かなりおいしいウナギを食べていたんだな。 小生、アナゴ文化圏で育ったせいか、おいしい天然ウナギはいまだに食べたことがない。 家持さんに倣って、むなぎで夏を越したいと思うのである。 ================================================================ 大伴家持情報の出典も、「おたふく」2010年春号です。
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