485.食育と子守歌(2010.9.6掲載)
7月2日付の読売新聞朝刊に、食育に関わる者にとってかなりショックな記事が掲載されていた。「正しい食の知識は必要だが、食育に偏りすぎると健康上裏目に出てしまう場合もある」という内容だった。 料理作りを喜んで体験していた幼稚園児が「食べるのが嫌」と突然泣き出したり、クラスの半数が「給食嫌い」の幼稚園があったりするという。「共通しているのは、親の多くが食育やしつけに熱心で、栄養面を考えて食事作りをしていた点」。食欲より栄養バランスを優先した結果か。 過度な食育は大人になっても影響を残す。「摂食障害の人は、子どもの時に食事内容を親に厳しく管理されていたケースが目立つ」らしい。 あふれる情報とマニュアル育児に翻弄された結果、偏った食育になってしまったとしたら、それは、一方で社会問題となっている育児放棄や幼児虐待と根は同じなのかもしれない。つまり、母親に100点満点の育児を求める社会と、自らを追い詰めてしまう母親自身の問題に起因する暗部なのだ。 NPO日本子守唄協会理事長の西館好子先生は、「いまの母親の残酷さは、育児に100点を求める残酷さです。育児は50点で満点。そう思えば、そんなにつらいはずはないんです」と語る。 たしかに、我が子とはいえ半分は「他人の血」なのだから、半分思うようにならなくて当然である。よくわからなくて当然である。 そんな子育ての苦悩の受け皿が子守唄だと西館先生は説く。子守唄には「泣きやまなければつねってやる」とか、「切り刻んで海に捨ててやる」などという残酷な歌詞が多いが、それを静かに口ずさむことで心が鎮まる。残酷な内容の子守唄を歌うことで、残酷なことをせずに済むのだ。 そういや、宗教学者の山折哲雄先生が「マイナーコードの暗い童謡を歌うことで弱者を思いやる心が生まれ、いじめがなくなる」とおっしゃっていた。まさに暗い子守唄も同じことだな。 五木の子守唄「おどま盆ぎり盆ぎり 盆からさきゃおらんと 盆が早よ来りゃ早よ戻る」。このおどろおどろしさがいい。 おいしい食事と子守唄で、子も親も癒されなければならないのである。 ================================================================ 子守唄情報の出典は、「Fole」2010年8月号です。
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