503.自己犠牲のタスキ(2011.1.17掲載)
大腸菌の世界にも自己犠牲という考え方があるらしい。 ボストン大学のコリンズ先生は、薬剤耐性のある大腸菌が自分の身を犠牲にして、耐性のない仲間の菌を抗生物質から守るという現象を確認した。 メカニズムはこうだ。耐性を持つ菌がインドールという物質を分泌する。このインドール、自身の増殖は阻害してしまうのだが、周囲の大腸菌の薬剤排出ポンプを活性化する働きがある。薬剤が迅速に排出されるから抗生物質の攻撃に耐えることができ、仲間は生き残るのだ。 本来、院内感染等で問題になっている薬剤耐性菌対策として始まった研究であるが、こういう自己犠牲のストーリーは日本人受けする話である。 日本の教育は、幼少期から自己犠牲の精神を諭してきた。 例えば、小学校低学年の国語や道徳の教材として使用される「泣いた赤鬼(作:浜田廣介)」。 人間の友達ができないと嘆く赤鬼のために、親友の青鬼が悪役を買って出る。悪者青鬼を「退治」する芝居の効果で赤鬼は人間の信頼を得て、交友が始まる。その陰で、青鬼は赤鬼のために姿を消す。青鬼の置き手紙を読んで赤鬼が号泣するシーンで、小生も目を腫らした記憶がある。 例えば、ご存知やなせたかし先生の「アンパンマン」。 自分の頭をちぎって弱者を助ける姿は、自己犠牲そのもの。美徳には痛みが伴うという哲学的思考を、具体的かつメルヘンチックに刷り込むには最高の教材である。 そんなことを考えながらおせちをつまんだ三が日。テレビでは箱根駅伝の激走が放送されていた。日本発祥の駅伝も、その自己犠牲的要素がファンを引き付けるのかもしれない。 大腸菌、赤鬼、アンパンマン、駅伝。 自己犠牲のタスキでつながる不思議なキーワードなのである。 ================================================================ 大腸菌情報の出典は、日経サイエンス2011年1月号です。
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