526.自らを律せよ(2011.6.27掲載)
新聞の書評欄にいざなわれて「数学は世界を変える あなたにとっての現代数学」という洋書を読んだ。 作者はリリアン・R・リーバーという米国の数学者で、書かれたのは第二次世界大戦の最中。難解な現代数学の求めるものは何なのか、それを知って何を得るのか、というような疑問を通して現代人の立ち位置を正す内容だった。 特に、高度な数学理論がいったい何の役に立つのかという誰もが思う疑問の答えが明快で、印象に残った。 「安易な結論に飛びついてはいけない、役に立たないと考えたのは、自分の知識が足りないからだ」 なるほどである。 三角関数なんか勉強しても日常生活で役に立つことないじゃん、と怠惰な免罪符を口にするビーバップ高校生に聞かせてやりたい言葉である。 ふと、自身のぐうたら高校時代を省みた。 わが母校の校訓は「自らを律せよ」。当時、自由奔放な母校の校風に不似合いなこの校訓がよく理解できなかった。なぜ、自らに枷をはめなければならないのか。ミッションスクールのような戒律をあえて課すのか。自由っていったいなんだい(これは尾崎豊)。 校訓の意味がなんとなく理解できたのは、卒業を目前に控えた高校3年の冬。ある事件がきっかけだった。 いつものように4時間目の授業を「自主休講」にし、裏門を乗り越えようとした瞬間、生徒指導のK先生に目撃されてしまった。しかし、怒鳴られることを予想していた私に飛んできたのは「早く帰ってこいよ」という意外な言葉だった。とりあえず裏門を後にしたものの、なんとなく後味が悪く、わずか10分の喫茶店ブレイクで再び教室に戻ってきたのだった。 自由とは自らを律することができる者のみに与えられた特権であり、K先生は理解の悪い私に、「自らを律せよ=早く帰ってこいよ」と伝えてくれた。遅ればせながら人生の軌道修正ができた。 無知は本当にこわい。 「安易な結論に飛びついてはいけない、役に立たないと考えたのは、自分の知識が足りないからだ」 ほんとうだ。 ================================================================ 「数学は世界を変える…」は、ソフトバンククリエイティブ発行です。
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