560.農耕のはじまり(2012.3.12掲載)
前号に引き続き、NHKスペシャル「ヒューマン なぜ人間になれたのか」から。 いまから1万年前に西アジアで始まった農耕は、人類史上最大の謎とされている。当時栽培していた小麦は成熟すると風で実が飛び散ってしまい、食糧としての収穫がほとんど期待できない品種だった(もちろん現代の小麦は風で飛散しない)。なぜわずかな収穫しか得られない小麦で栽培を始めたのか。 それは、収穫量がわずかだから。すなわち貴重品だから。 貴重な小麦を隣の部族に与えて交流を深め、時には発酵してビールを作ったりして部族間の対立を未然に防いだというのである。食糧ではなく、ギフトとしての小麦。これが農耕の始まりだったのだ。 そう考えると、現代の家庭菜園も、食糧というより癒しのための農耕ではないか。家庭菜園ブームを追い風に、各地で「市民農園」や「体験農園」が増加しており、行政に登録されている市民農園は全国に3596ヶ所もある。 ちなみに、市民農園は「雑種地」と呼ばれる土地を区画貸しし、借り主が農作業を実施する農園なのだが、近頃では根性のない一般人が農作業をさぼり美観を損ねる事例が多発している。 そこで、脚光を浴びているのが体験農園。これは、農家が利用者に農作業を指導するカルチャースクールのようなスタイルで、会員が手伝いをしながら会費分の野菜を農家から買うという考え方。 農地法では一般人に農地を貸し出せないから、このような制度ができたのだ。 ならばもっと活用しようと提唱しているのが、雑誌「農業経営者」編集長の昆吉則氏。全国の耕作放棄地40万ヘクタールを1区画5アールの体験農園とすれば800万区画でき、年会費5万円で4000億円もの売上げとなる。 隣人を思いやることで始まった農耕が1万年を経て過渡期を迎え、いま、自身を癒す手段として再生しようとしているのである。 ================================================================ 体験農園情報の出典は、「WEDGE」2012年3月号です。
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