653.伊勢海老とロブスター(2014.1.20掲載)
今から30年ほど前、「伊勢海老になりたかったロブスター」という名前の新商品を発売したことがあった。 中身はレトルトの具材入り調味液で、いわゆる「海老ピラフの素」なのだが、当時はこんな挑戦的なネーミングが許される長閑な時代だった。今日のコンプライアンス事情に当てはめると、即アウトである。 特に昨年11月のあの事件以降は…。 昨年の阪急阪神ホテルズ「芝エビ騒動」に端を発する「誤表示」問題の流れを受け、11月1日、名鉄系ホテルが「伊勢海老表記の料理にロブスターを使用していた」と謝罪した。 例によってワイドショーは大騒ぎ。食品ネタは身近な素材で視聴率を稼げるから、マスコミの餌食となってしまう。事の真相を掘り下げもせず、「信じていたのに裏切られてかなしいです」てな感じの街角インタビューを挟んで「偽装祭り」に仕立て上げる。 いいじゃないか、ロブスターでも。板前の腕がいいから伊勢海老と見まがう味に仕上がったわけで、貴重な水産資源を保護する観点からも過剰な懺悔は不要だと思う。 実際、名鉄系ホテルで使われていたのはハサミのないアフリカンロブスターで別名「アフリカミナミイセエビ」。ザリガニの仲間のロブスター属ではなく、ミナミイセエビ属なのだ。 さらに、「オーストラリアイセエビ」や「アメリカイセエビ」となると伊勢海老と同じイセエビ属。属まで同じなら「伊勢海老」表記でもよさそうなものだが、日本産をイメージさせる表現は問題という考え方もあり、現場は完全に委縮してしまっている。 他にも委縮事例はある。藤田観光は、「サーモン(サケ)と表示しながら海水養殖のトラウト(マス)を使用した」と謝罪した。ただ、海水養殖のマスをサケとして提供するのは業界の慣例で、ルールも不明確。サケまで謝られたら外食産業は立ち行かなくなるとの声も出ている。 いずれにせよ、本件は賞味期限切れ食品廃棄問題と同様、飽食ニッポンならではのぜいたく騒動である。 その騒動を予見していたかのような「伊勢海老になりたかったロブスター」というネーミング。ここに、あらためてお蔵入りとさせていただく次第であります。
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