692.草食系コミュニケーション(2014.10.27掲載)
若者のコミュニケーション能力低下問題に関しては、さまざまなシーンで論評され、識者による考察が重ねられている。 少子化と核家族化が進行して人と交わる機会自体が減少した上に、モバイルツールの発達で最小限の会話で目的が達せられるようになったからだと。 「Aさんのお宅ですが?」「わたくしBと申しますが、Cさんいらっしゃいますか?」「また改めてお電話させていただきます」 物心ついたときからこのプロセスが省略できる環境にいた若人にとって、ビジネスマナーは異次元のことなんだろうな。目の前にいるのにメールで報告してきたり、「Bさん電話で〜す」と叫べばいいのに小走りでやってきて耳元で「電話です」とささやいたり。 ところで、情報伝達を目的とした会話が不要になるという傾向は、人類にとって進化なのか退化なのか。宇宙人のテレパシーを想像すると進化だし、言葉を持たない原人をイメージすると退化になるのだが。 そのヒントとなるような研究を、京都大学と山口大学の研究者が植物をモデルに行っている。言葉を持たない植物が、害虫による被害を仲間たちに伝えるというのだ。 例えば、モンシロチョウの幼虫であるアオムシに葉をかじられたアブラナは、ヘキサノールなどの「緑の香り」を放出し、二方向に対してコミュニケーションを取る。 1つは近くの仲間。ヘキサノールを受け取った仲間は、自身をアオムシが食べにくい葉に変えるべくヘキサノールを配糖体にして葉に蓄え、ガードする。もう1つはアオムシの天敵であるアオムシサムライコマユバチ。緑の香りに誘われたコマユバチは好物のアオムシを見つけて寄生し、駆逐する。で、アブラナは助かる。 植物はこのような高度なコミュニケーションで危機管理を行っており、意味なく緑の香りを漂わせているのではない。言語のかわりに化学物質でやりとりをしているのだ。 はたして若人コミュニケーションの行く末やいかに。 草食系と呼ばれるくらいだから、青臭い香りを放出して仲間を助け、天敵を呼び寄せて自身の危機を回避するようになるかもしれないと思った次第である。
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