718.あおる(2015.5.4掲載)
一般的に「不安をあおる」というと悪い意味になるが、これをポジティブに活用している事例がいくつかある。 例えば、駅ホームの発車メロディ。 通常の楽曲は、ドミソ(C)→ファラド(F)→ソシレ(G)→ドミソ(C)という感じで、最終的にしっくり落ち着くコード進行が基本であるが、ホームで落ち着いてしまったのでは電車に乗り遅れてしまう。そこで、C→F→Gで切ることで乗客をせかし、あおり、「乗らなきゃ」という精神状態にさせるのだ。 昔よく見かけた横断歩道のBGM「とおりゃんせ」もそうだ。 あのおどろおどろしくも暗いマイナーコードにせかされ、あおられ、歩調を早める。明るくおおらかな曲でのんびり横断歩道を渡るより、不安できょろきょろの方が安全。 そして、テレビショッピング。 「QVC」「ショップチャンネル」など、最近のテレビショッピングはものすごくレベルが高い。あおるといっても、昔のように「今買わないと絶対損」とか「これ飲まないと病気になる」といった脅迫まがいの押し付けではない。 キーワードは、「残り半数」「ウェイトリスト」「sold out」。スタジオライブの商品プレゼンを見た顧客が電話注文し、そのオーダー数が画面上でカウントされる。次々増える。 そして、「残り半数」お早めに。今なら4日以内のお届け可能。さらに残り少なくなると発送に時間がかかる「ウェイトリスト」入り。ついには「sold out」で番組終了。このライブ感、臨場感はすごい。途中、1度たりとも「買ってください」という説得トークはないが、なぜだか納得して電話をかけてしまう。もはやマジックだな。 舞台鑑賞もそうだ。映画なら、封切観なくてもいいや→DVDでいいや→テレビ放映まで待つか、てな油断が生じるが、舞台はその時その瞬間しかない。見ないと後悔する感満載の告知にはかなわないな。 もちろん本稿も、「読んでくださるのは今週が最後かもしれない」という危機感を持って、毎号あおられながら一筆入魂でしたためているのであります。
|
column menu
|