719.ホシガラス(2015.5.11掲載)
ある企業の入社試験で、「電線のスズメが落ちない理由を書け」という応用力を試される問題が出た。 企業側が求めるのは、「落ちたら飛べばいいから」という感じの発想力豊かな答えを返せる人材ではないか。 他にも、「電線に止まった5羽のスズメのうち1羽を鉄砲で撃ったら残りは何羽か」「電線のスズメが感電しないのはなぜか」等、電線のスズメはよくいじられる哲学的存在なのだ。 実際、スズメは想像以上に頭がいい。 小生の自家用車駐車場の上にも電線スズメが常駐しており、フン害対策として電力会社に「スズメが止まれない極細ピアノ線ガード」を張ってもらったが、効き目があったのは1年間だけ。今では学習して極細ピアノ線の上に見事に止まっている。 また最新の観察研究で、スズメは路上に落ちた吸い殻を拾って中から樹脂製のフィルターを取り出し、巣に織り込むことがわかってきた。フィルターに蓄積されたニコチンが天然の殺虫剤となり、巣やヒナを寄生虫などの有害な虫から守ってくれるのだとか。未使用のフィルターには目もくれないから、スズメは本当に頭がいい。 スズメだけではない。ドイツのフランクフルトにあるロエベ生物多様性・気候研究センターのノイシュルツ博士は、ホシガラスが「食品科学的知見」を活かして餌を保管していることを発見した。 ホシガラスはスイスカサマツという木の種子しか食べないが、この種子の収穫期は8月から10月の間のみ。年中食べられる食糧にするにはどうしても「貯蔵」が必要だが、普通に土の中に埋めたのでは芽が出てしてしまう。 そこでノイシュルツ博士は、ホシガラスがどこに餌を隠すのか400時間近くにわたって地道に観察した。結果、ホシガラスは見事に日当たりが悪く水分の少ない発芽に不向きな場所ばかりを選んで種を埋めていたのだ。 まさに食品保蔵学の王道。毎年冬の終わりになると卵からヒナが生まれるが、親鳥はどのようにしてこの貯蔵法を伝えているのか。 近いうち、入試問題になりそうな命題なのである。
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