765.アリのリーダー(2016.4.11掲載)
交通渋滞のメカニズムを研究する東京大学の西成教授によると、「渋滞は前のクルマとの車間距離が狭くなることで起こる不安定現象」らしい。 前のクルマが減速した時、十分な車間距離を取っていないと慌ててブレーキを踏んで前のクルマ以上に減速してしまう。この現象が連鎖的に起こることで自然渋滞が発生する。 よって、混雑時こそ車間距離を取るべきなのだ。これを「科学的ゆとり」と呼び、災害時の非常口に避難者が殺到する人の渋滞、工場でモノを作りすぎる在庫の渋滞、会議で何も決められない意志決定の渋滞なども同じ理論で解決可能だという。 このことを本能的に実施しているのがアリの行列である。アリはどんなに混んできても前との距離をあけて絶対に詰めない。だから渋滞しない。 ならば、どのアリがどのように集団を仕切っているのかを調べれば、モノづくりや意思決定に生かせるリーダー術が学べるのではないか。アリのリーダーはどこにいるんだ。 ところが、残念なことにアリの集団はリーダー不在で動いていた。アリが単一の指令に従って隊列行進をすることは決してなく、個々のアリが雑多な行動をしつつ、それが組み合わさって集団全体として餌を見つけ、巣を作り、道路や橋を形成し、庭を耕していたのだ。 監督不在の野球チーム、指揮者不在のオーケストラ、局長不在の中央省庁。なんだか近未来の組織論につながりそうな「中央制御不要集団」。実際は、アリどうしが接触して、互いの匂いを感知することで集団行動の統制を取っている。まさに、童謡「おつかいありさん」の世界である。 「あんまりいそいでこっつんこ ありさんとありさんとこっつんこ あっちいってちょんちょん こっちきてちょん」 2015年夏、「アントマン」という米国映画が公開された。アリのサイズに自身を縮小した主人公スコット・ラングは、特殊な装置でアリの群れに指令を出して悪の黒幕との戦いを手伝わせる。 ヒーローが欠かせないハリウッド映画にとって、アリのリーダーの存在は都合がいい。 それが科学的に間違いであるということを除いて。
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