766.単価(2016.4.18掲載)
食品の付加価値をグラム単価で評価するという考え方がある。 だし素材を例にとると、最も安価な顆粒だしの素はグラム0.5円だが、本格的にだしを取る花かつおだとグラム5円。この10倍の価格差が「だし感」の差だ。 高級食材なら国産マツタケのグラム100円や、グラム800円のロシア産キャビア。いやいや最高値時のウナギの稚魚はグラム2500円だったぞ。グラム4300円の金に迫る高値だから、シラス漁師が血眼で海に入るのも無理はない。 話は変わるが、いろいろな娯楽を体感すると「一時(いっとき)」単価という考え方で総括をしたくなる。一時は昔の時間単位で今の2時間。その名残か、演劇やスポーツや音楽など多くの娯楽が2時間単位で提供されており、どうしてもその費用対効果を比較したくなるのだ。 歌舞伎は一時18000円でちと高い。劇団新感線の時代劇だと大がかりだから一時13000円だが、小規模の芝居だと一時7000円。 コンサートはどうか。ウィーンフィルなんて一時30000円でとても手が出ないがN響なら8800円で何とかなりそう。 スポーツも然り。大相撲の本場所は幕内力士が登場する午後4時からの一時を楽しむのが主流で枡席1人12000円。東京ドームの巨人戦、一軍は6200円だが二軍だと3000円でネット裏最前列。そうだ、ぴったり一時で終わるマラソンなら沿道観戦は0円だ。 こういう風に比較すると、一時単価的に最も価値がある娯楽は間違いなく寄席だと気づく。前座が終わる6時半頃入って大トリが終わるまでの一時をたっぷり楽しみ2800円。もちろん漫才、曲芸、手品なんかの色物付き。 やっぱり寄席は庶民の娯楽なんだ。 「おい息子、となり行って金づち借りてきてくれ、釘打つんだ」 「すいませ〜ん、金づち貸してくださぁい」 「どうせ釘打つんだろ、やだよ、すり減っちまうから貸さないよ」 「父ちゃん、となりのおじさん貸してくれなかったよ、ありゃ相当のケチだね」 「そうか、仕方ない。…ウチのを使うか」 一時単価を考えると、寄席ほど贅沢な娯楽は無いと思うのである。
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