782.高校エレジー(2016.8.8掲載)
わがふるさと愛媛県は、出身高校でその人物の性格や地頭や人となりを判断するという風習がある。出身大学より出身高校が優先されるのだ。 教育関係者が「変な風習」と語るくらいだからよっぽどなんだろうが、骨太リーダーのE高、軟弱者のS高、質実剛健のN高というようなぶれない校風が、そのまま人物像に反映されるからわかりやすい。 かくいう私も、軟弱な理由で軟弱S高に進学した。 それは、受験を控えた悩める中3の秋。S高の前を偶然通りかかった時、ちょうど運動会の打ち上げ中で校庭でアーチを燃やしながらのフォークダンスが盛り上がっていた。男女が手をつないで「オクラホマミキサー」を踊るパラダイスぶりに、くぎ付けになった。 そして次の曲、「ワシントン広場の夜は更けて」が流れた瞬間、体が無意識に吸い寄せられ、迷いは消え、進路は確定した。 この、どこかもの悲しいマイナーコード(Em)に体が反応した理由。それは、この曲をモデルにして作られたCMソングを幼時にしこたま刷り込まれていたから。茶の間のテレビで、父の口笛で、祖父の鼻歌で。 「ダンダンディダン シュビダディン オデーエーオエーオー」 ご存知サントリーオールドのCMソング「夜がくる」。CMソングの帝王、小林亜星先生は「ワシントン広場の夜は更けて」をモチーフにCmでこの曲を書いた。 つまりS高進学は、魂に染みついたマイナーコードに導かれた結果…、いや、やっぱりフォークダンスに導かれた結果か。 そういえば、最近マイナーコードのCMソングを聴かない。宗教学者の山折哲夫先生も、「茶の間からマイナーコードが消えて、いじめが増加した」とおっしゃっていた。マイナーコードの暗い曲を聴くことで弱者の気持ちがわかり、助け合う心が生まれるというのだ。 もちろん、いじめなど全くなかったパラダイスS高。軟弱者かもしれないが、弱者の気持ちがわかる優しい大人に育つんだ。 今宵はサントリーオールドで35年前に妄想旅行の予定である。
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