783.人間は賢いか(2016.8.22掲載)
地下に埋めた放射性廃棄物を10万年後の人類が「発掘」すると想定した場合、その危険性をどう伝えるかという命題がある。 現代の言語が通じるのか、どくろマークを見て危険性を認識できるのか、10万年後の人類の知的レベルなどまったく想像がつかない。 動物に対してこれと同様の思いを抱いているのが霊長類学者ドゥ・ヴァールで、新刊のタイトルは「動物がどれくらい賢いかわかるほど人間は賢いか?」。 ドゥ・ヴァールはこう書いている。「動物の知能レベルを解明しようとするなら、まず対象の動物とその自然誌のあらゆる側面に精通する必要がある」「そして、われわれ人間が得意とする能力で動物をテストするのではなく、その動物の特技で評価すべきだろう」。 たしかに、コウモリやイルカの超音波認識力は人間にはないものだし、リスの生活にとって数を数えることが大して重要でないなら、リスが10まで数えられるかどうかを問うのは極めてアンフェアなのだ。 ドゥ・ヴァールは、オランダのブルヘルス動物園の25匹のチンパンジーに関する逸話を紹介している。ここのチンパンジーは隣の島に行けるよう放し飼いにされている。 ある朝、ドゥ・ヴァールらはグレープフルーツを山盛りにした木箱を、チンパンジーたちのそばを通って島に運び込んだ。しかし、予想に反してその時点で彼らはグレープフルーツを無視した。 次に、研究チームがグレープフルーツを島に隠し、空っぽの木箱を抱えて戻った時、それを見たチンパンジーは跳ね回り、大声を上げ、興奮して背中を叩きあった。「木箱が空ということは、島に行けばグレープフルーツが食べ放題だぞ!」と。 まだ続きがある。チンパンジーの群れが島に着いた時、数個のグレープフルーツが砂からのぞいている場所を素通りした。見落としたのかと思いきや、1匹の順位の低いオスが、仲間が昼寝をしているすきに砂浜のグレープフルーツを取りに来たのだ。 すごい、強者の横取りをかわす賢さ。ふと、映画「猿の惑星」を思い出した。10万年後に放射性廃棄物を発掘するのは、人間を支配するチンパンジーではないのか。 人間が一番賢いというおごりは、改めなければならないのである。
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