819.モノづくりの5項目(2017.5.8掲載)
高校から大学時代にかけて、ひたすら通い続けたお好み焼き屋さんがあった。 「風流」という名のその店は民家の一部を店舗にし、84歳のおばあちゃんが1人で切り盛りしていた。広島風で焼き始めて関西風に仕上がるというおばあちゃんの焼き技は絶妙な旨味を引き出し、どこの店にも真似のできない唯一無二の存在だった。 おばあちゃんがのんびり作るものだから、焼き上がるまでに40分かかるという問題はあったが、時間も無限にあった。3日とあけずに食べ続けた。 寄る年波に負けたわけでは決してなく、「そろそろ遊びたい」というファンキーな理由でおばあちゃんが店を畳んだのは今から30年前のちょうど今頃。そして、その日から「風流」に匹敵するお好み焼き屋さん探しが始まったのだ。 チェックポイントは5つ。小汚い民家の一角を店舗にしている。鉄板は厚めで割り箸のかわりにヘラで食べる。トイレは家と共用。主人自らが焼く。そば入りの広島風で焼き始め、できあがりはしっかり固めの関西風。 これがなかなか見つからない。「古き良き時代の美化された味」というセンチメンタル調味料を差し引いても、5項目全て揃う店は探索30年目にして未だ見つかっていない。 そんなある日、仕事で協力工場の査察に出かけた際、この探索5項目が工場の監査項目と似ていることに気づいた。小汚い民家→工場建物、厚い鉄板とヘラ→生産設備、トイレ→衛生管理、主人が焼く→製造マニュアル、広島風で焼き始めて固めの関西風に仕上げる→商品設計。 5項目すべてが揃う工場なら安心して自社商品の製造を委託できる。モノづくりの真理は同じなのか。 昼食時、その協力工場の社長が常連だというお好み焼き屋さんに連れて行かれた。ピカピカの店で、薄い鉄板の横に割り箸があって、トイレも小じゃれていて、自分で焼いて、ぐじゃぐじゃになった広島風。 探索の旅は、まだまだ続きそうである。
\\\\
|
column menu
|