829.ネバネバ(2017.7.17掲載)
大嫌いだった納豆に挑戦を始めて15年がたった。 初めは納豆臭の少ない「におわなっとう」を少しずつだったが、今や臭くないと物足りない納豆フリークに進化して毎日欠かさず正統派を食べている。 ただし、白めしと一緒に納豆をかき込むまでには至っていない。食前に薬を飲むように、まず納豆。そして食事。 あのネバネバが他の食材と絡むのがどうにも納得いかないのだ。箸に付いたネバネバを洗い落として食事をスタートする有り様。ネバネバを食べると粘りのある人間になれるのにね。 納豆のネバネバ成分は、グルタミン酸が約5万個つながったポリグルタミン酸と呼ばれるもの。納豆菌はポリグルタミン酸を楯にしてアメーバや原生動物などの捕食者から身を守る。そして、自身のエサがなくなったらポリグルタミン酸から1つずつグルタミン酸をはずして食べる。納豆を放置するとネバネバがなくなってくるのはこのためだ。 納豆のポリグルタミン酸にはもうひとつの不思議がある。それは、D型のグルタミン酸が約8割を占めているということ。ふつう、自然界に存在するグルタミン酸はL型である。「味の素」の主成分であるグルタミン酸ナトリウムもL型。D型に旨味はない。 D型とL型の違いは、単に構造が左右対称というだけ。つまり、右手と左手のような関係で同じだけど重ならない不思議なペア。D型を鏡に映した姿がL型だから、鏡像体という呼び方もある。自然界に存在しないD型グルタミン酸。納豆のネバネバは鏡の向こうからやってきたのか。 そして、グルタミン酸の先駆者である味の素は、ポリグルタミン酸を大量に生産することに成功した。ネバネバ成分だけだから納豆臭はない。 これを加工食品に配合するとネバネバのおかげで旨味成分が舌の上で絡み、減塩しても美味しい商品に仕上がるのだ。 ネバネバを減塩素材として活用する天才的発想。 粘りのある人間になれるかな、などと呑気なことをほざいていた自身を猛省した次第なのである。
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