828.加工食品エレジー(2017.7.10掲載)
地元の大学生が地域の特産品を活用して加工食品を開発するというプロジェクトに招かれ、加工食品開発の要諦をレクチャーした。 君たちが試作しているのはこだわりの手料理であり、これを加工食品に昇格させるには大きな壁がいくつもあるんだよ、と。 こだわり手料理は、贅沢でレアな食材を調理し目の前のあなたにその場で提供する。 加工食品は、安価で安定確保できる原料を加工し全国不特定多数に供給する。 こだわり手料理は、手間ひまかけてじっくりとブレを楽しみながら調理する。 加工食品は、効率と歩留りと生産性を追求していつも同じ味に加工する。 こだわり手料理は、できたてを提供する。できればカウンターで。 加工食品は、殺菌して出荷する。できれば賞味期間1年で。 あぁ、メーカーはこんな難儀な壁を超えているのか。 つまり、こだわり手料理と加工食品は対極。目の前にいる人に炊きたてのアツアツご飯を出せばたいてい「うまい」と言ってくれるが、全国津々浦々に何万という数の加工食品を送り出せば、当然「まずい」という叱責も浴びる。 これは、手紙と論文の関係に似ている。 気持ちに糸目を付けず、切ない感情をそのまま伝える手紙。 心を整え、素材を整理して論理的に組み立てる論文。 時間をかけ、特定の相手を想いながら訥々と綴る手紙。 無駄を避け、不特定の相手に考察と主張を伝える論文。 翌日読むと恥ずかしくなる手紙。 何年たっても評価のぶれない論文。 こうやって比べると、加工食品と論文はドライで味気ないものに見えてしまうが、料理や手紙に込めるような熱い思いを注がなければ売れる作品にはならない。 ということで、リクルート生には気の毒だが、我が社の入社選抜試験では、小論文の代わりに料理を課題としている。 美味しさは不問だが、食材選びのセンス、調理の段取り、試食会でのプレゼン力などを評価し、加工食品開発の技量を見抜く。 学生さんごめんなさい。 試験官は、加工食品も小論文も未だ手に余る50代なのであります。
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