858.先送り万歳(2018.2.26掲載)
我が母校のS高校は、「今日がよければすべてよし」というあまり深く考えない校風を差別化ポイントにし、ライバルE高校の「将来を考えてこつこつ積み重ねる」姿勢と一線を画してきた。 アリとキリギリスのようなものである。 浮かれバイオリンの3年間は楽しいことこの上なく、「県立パラダイス学園」の二つ名で圧倒的人気を誇る進学校となった。将来のことを考えなければ…。 当然ながら、社会に出れば勝者はこつこつアリさんである。ビジネスで成功するのは「雨が降ってから考える」S高校ではなく、週間天気予報を確認して事前準備に余念のないE高校。 だから、社会の掟を知ったOBは、楽しんだくせに子供を他校に入れたがる。 そんな、ちょっと卑屈なS高校OBに朗報となる研究結果が出た。岡山大学の宮竹博士が「問題を先送りする人材の方が実は会社に貢献する」という考察を、コクヌストモドキを使った実験で提示したのだ。 米びつなどに発生する体長3ミリ程度のコクヌストモドキは、天敵に出会うと死んだふりをして危険を回避する。 ここで、死んだふりをする時間の長い(ロング)個体と短い(ショート)個体に分けて2年間15世代育種したところ、ショート個体は死んだふりそのものができなくなり、ロングは10分以上全く動かない個体に変異した。 その上で天敵ハエトリグモと遭遇させると、ロングの生存率93%に対し、ショートは36%と歴然とした差が出た。コクヌストモドキの死んだふりは、進化生物学的に適応的な戦略として正しい、という結論となったのだ。 死んだふりとは、目前の事象に反応しない「先送り」状態で、人間社会では消極的でネガティブな態度として敬遠される。しかし、この実験結果によると、問題を先送りするロング人間は一見消極的なようで実は冷静で実務に長け、長く会社に貢献する人材かもしれない。一方、ショート人間は積極的な分、消耗が激しく、ストレスもたまりやすい。 そう言われると、自身も大問題に直面して行き詰った時、スイッチを切ったことが何度かある。ならば、情熱的に問題に体当たりしてきたE高校がそろそろ力尽きる頃かな。 死んだふり万歳、先送り万歳、S高校万歳なのである。
\\\\
|
column menu
|