860.ワラはすごい(2018.3.12掲載)
先日、ある歯科医院の掲示板で気になる標語を見つけた。 「卑弥呼の歯がいーぜ」 日本咀嚼学会が考案したというこの標語には、よく噛んで食べることの効用が次のように込められている。 ひ…肥満防止、み…味覚の発達、こ…言葉の発音がはっきりする、の…脳の発達、は…歯の病気予防、が…ガンの予防、い…胃腸の働きを促進、ぜ…全身の体力向上と全力投球。 なぜ卑弥呼なのかというと、卑弥呼の生きた弥生時代の食事は硬いものが多く、1回の食事で3990回も噛んでいたというのだ。たくさん噛むから食事時間が長く、51分。対して現代人の平均咀嚼回数は620回で、食事時間11分。 噛まないから現代人はあごの線が細い。羽生結弦選手も宇宙人じゃないかと思うくらい顔が小さくて顎が細い。ちなみに、鎌倉時代は2654回、戦前でも1420回噛んでいたというから、食事は急激にやわらかくなったのだ。 弥生時代の食事というと、すぐに稲作文化を連想しがちだが、咀嚼回数という切り口もおもしろい。 そこで、日本咀嚼学会を見習い、稲作文化をワラの文化として考察してみた。 縄文末期から弥生初期にかけて、稲の収穫器具は石包丁だった。石包丁は稲の穂を摘み取る収穫法だから、ワラを利用できない。それが、弥生末期から古墳時代にかけて石鎌で稲を根元から切り取るようになり、ワラが利用できた。 そして、ワラは日本の衣食住に定着した。 衣…草鞋、藁帽子、蓑、筵。食…米俵、藁納豆、糠団子、藁束子。住…畳床、藁葺き屋根、注連縄。おまけ…藁馬、藁人形。 なんだか漢字検定みたいだが、すべて今あるものばかり。稲作最大の副産物は土から生まれて土に還るエコ素材。循環型社会のお手本として、一気に主役に躍り出たのだ。 ワ…和の素材、ラ…ライフスタイル全般、は…廃物利用、す…捨てるとこなし、ご…ごはんのおかげ、い…囲炉裏が似合う。 「ワラはすごい」のである。
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