983.食品業界エレジー(2020.8.24掲載)
製薬メーカーに勤務する知人が、こんなことを言っていた。 「今ある医薬品の99%は、60年前には世の中に存在していなかった」 なるほど、こりゃ食品とは世界が違う。 かつお節は400年前、納豆は800年前、味噌は1000年くらい前からこの世にあったわけだから、医薬品=新薬と言ってもいいくらいの激しい世界に違いない。 そこで、医薬品と食品の商品開発を比べてみた。 まず開発費。医薬品は、20年近い歳月と数百億円の経費をかける大プロジェクト。対する食品は、半年で数百万円。下町の惣菜屋にだって新商品は出せる。 次に研究開発の流れ。医薬品は、学術研究を突き詰めた先に商品の姿が見える。例えばアステラス製薬は、筑波山麓の土壌細菌が免疫抑制物質を生成することを発見。その物質を「プログラフ」という商品名で発売し、臓器移植になくてはならない医薬品に育て上げた。全世界売上1300億円。 対して食品は、基礎研究よりおいしさ追求。化学式なんてどうでもいいから、安くておいしいものを作ればいい。だから、就職活動の際の「大学で遺伝子を扱っています」てなアピールはあまり意味がない。 最後に特許。今はやりのジェネリック医薬品は、特許切れ商品を中小の製薬メーカーが安価に製造販売するものだが、300億円かけて開発した新薬が20年後の特許切れで半値になるのは、先発メーカーにとって納得のいかないことだと思う。 対して食品は、特許文書に書ききれない職人的レシピが美味しさを左右するから、特許をまねして製造してもなかなか同じものができない。だから、全く同じ味の後発品を作るのは意外と難しい。 医薬品と食品。平均年収的にも対極にある両業界だが共通点もある。それは、リスク。 経営コンサルは、「クレーム、回収、訴訟など、参入リスクの高い業界が、医薬、食品、運輸です」と口をそろえる。 確かに、雪印乳業はクレームで一夜にして1500億円の内部留保金を吹っ飛ばした。 リスクと戦いながら新商品開発に精進する日々なのである。
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