991.ジャパンのお手本(2020.10.19掲載)
ポケットビリヤードのトッププロの試合は、見ていて意外とおもしろくない。 淡々と「的球」をポケットに沈めるだけで、客席が湧くようなトリックショットやスーパープレーはほとんどない。 それは、プロだから。プロは勝つ試合じゃなく、負けない試合をするから。 負けないためには、失敗するかもしれないスーパープレーは絶対に避ける。つまり、自信のない時はポケットを狙わず「手球」を隠して相手のファウルを誘うのだ。 プロは負けてはいけない。負けるかもしれない勝負は、何を言われようが避けなければならない。地元開催となればなおさら…。 野球の「稲葉ジャパン」のことである。 ストライクゾーンやボールが違うのは国際試合だから当たり前。今回、慣れた球場だから、グラウンド環境は圧倒的に有利。 それでもプレッシャーがあるというなら、石ころグラウンドの草野球で鍛えたアマチュア選手やトーナメントに慣れた社会人野球選手の方が五輪向きかもしれない。 温室育ちの高額年俸者に対する意地で、執念のプレーを見せてくれるに違いない。 調理の世界でも、似たような経験がある。 ある飲食店から「つゆの味がぶれる」というクレームが来た。返品されたクレーム品を見ても異常はなかったが、お詫び訪問で真相がわかった。その店は山小屋のようなワイルドな佇まいで、壊れかけの計量カップを使って適当につゆを希釈していたのだ。 「兄ちゃん、パッケージの指示通りなんか作れないよ」 いつも下2ケタのデジタル重量計でつゆを希釈し、規格通りの完璧な状態で試食していると、調理現場では当たり前のことが見えなくなってしまう。調理の世界でも温室育ちはろくなことがない。 ちなみに、ビリヤードの国別対抗では圧倒的にフィリピン勢が強い。それは、ワイルドな青空撞球場のでこぼこテーブルで、生活をかけて負けられないゲームを撞いているから。 負けられない稲葉ジャパンの参考にしてもらいたいと思うのである。
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