996.二十五の夜(2020.11.23掲載)
今年はコロナ禍で2回しか東京に行けなかった。 大都会の底力に尻尾を巻いて逃げた25歳の時以来の少なさである。 今から32年前の1988年、上京したてのカントリーボーイは知人に紹介された有楽町での「アンドレ・リュウ+ヨハンシュトラウスオーケストラ」コンサートで、衝撃の3連発をくらったのだ。 難解なクラシックをポップに楽しくエンターテイメントするアンドレ・リュウの人気は高く、5000席が満席だった。 1発目…「美しく青きドナウ」の演奏前、リュウ氏が「これはダンスのための音楽です。踊りましょう」と言い場内の照明が全開になると、本当に通路で踊り出すカップルが続出。見ているだけで恥ずかしかった。田舎では絶対にありえない。人前でワルツを踊るなんて。 2発目…休憩時間、ロビーの喫茶コーナーに長蛇の列。そして、その先には1200円のハンバーガー。小生も私財をなげうって食べてみた。感動の味だった。とっさに「田舎のおふくろに食べさせたい」とひとりごち、涙ぐんだ。 3発目…すぐ前の席に、1人ぽつねんと座る30代前半の男性。185cm、100kg、角刈りの体育会系でどう見てもこの会場には不似合い。しかし終盤、体はワルツとともにスィングし始め、天井から風船が舞い降りるやそれを両手に取り頭上でシェイク。すごい。ごっつい体育会系男がこんなにおちゃめになるなんて。これまた田舎じゃ考えられない。 こんな底力を見せつけられ、もちろん音楽も堪能し、ついでにCDを買って会場を出た。 信号待ちで、メルセデスSLK320カブリオレに乗る白人男性がショパンを全開で聴いていた。かっこよかった。 打ちのめされ、再上京を果たすまで25年かかってしまうことになる「二十五の夜」なのである。
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