「秀吉 夢を超えた男 1〜4巻」
堺屋太一著 文春文庫 定価590円 韓国を旅すると、ガイドが「わが国に古い寺院が少ないのは秀吉軍に破壊されたためだ」と説明し、秀吉好きの日本人は悲しくなる。しかしこれは、明白な歴史歪曲。李氏朝鮮は仏教を大弾圧し、一万以上あったといわれる寺院は、秀吉軍が朝鮮に入る前に三十六ヵ寺にまで減らされていたのだ。 日本人は秀吉が大好きである。このことは、NHK大河ドラマの歴代秀吉役を見てもわかる。昭和四十年の「太閤記」から平成十四年の「利家とまつ」まで順に、緒方拳(二回)、中村芝鶴、火野正平、西田敏行、武田鉄矢、勝新太郎、藤岡琢也、仲村トオル(二回)、竹中直人、香川照之。トオルちゃんはちょっとカッコよすぎる気もするが、すごい顔ぶれだ。 本書は、そんな秀吉を経済人堺屋太一の目を通して描いた歴史的サクセスストーリー。いかにして秀吉が成り上がったかを緻密に書き込んでいる。 木下藤吉郎(後の秀吉)は、糧食のコストダウンや薪購入方法の見直し、普請の競争入札などで行政改革を断行し、信長軍を裏から支えた。信長のわらじを懐で暖めたくらいで百姓が関白になれるわけがない。今ならTQC活動として発表できそうな改善を、コツコツ地道に積み重ねたのだ。 しかし、天下人となった秀吉も、朝鮮出兵という愚策で豊臣政権の崩壊を招いてしまう。おごれるものは久しからず。「夢を超えた男」の胸中やいかに。 信長が、「人間五十年、下天のうちを比ぶれば夢まぼろしの如くなり」と敦盛を好んだように、秀吉もまた、夢を辞世として残した。 「つゆとをち、つゆときへにしわがみかな、難波のこともゆめの又ゆめ」 日本史上最高の出世人は、夢を果たし、露と落ちた。しかし、決して消えることはなく日本国民の心に住みついている。 日本人は太閤さんが大好きなのである。
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