4. スイカ浴び (2001.01.23掲載)
君はスイカをおいしく食べる儀式を知っているか。 それは、玉をポンポンとたたいて品定めをすることではなく、ピタゴラス的八等分で包丁を入れるワザでもない。もちろん、甘いのかしょっぱいのかわからなくなる塩ふりでもない。 儀式に必要なのは流し台だけ。そう、キンキンに冷えたスイカを用意し、息つくいとまもなく浴びるようにかぶりつく。それだけでいい。 シャワシャワと連続的にほおばり、口のまわりをベトベトにする。種が飛び散ろうが口の中に入ろうが、そんなことは関係ない。その時、ぜいたくにむさぼるという物理的恍惚感と、口のまわりをよごしてしまう幼少回帰への憧憬が交錯し、独自の興奮状態を迎えるのだ。 カラハリ砂漠が原産というスイカの野生種を発見したのは、イギリスの医師リビングストーンといわれている。灼熱のただ中で水の玉にたどり着いたときの高ぶりは想像に難くない。ならば現代のスイカは、タイムトンネルのオアシスなのか。 「祭ばやし」、「サマーキッズ」、「ひとりじめ」、「ダイナマイト」といったスイカの品種名を見てもわかるだろう。子供のように、やんちゃに、そして豪快に食べるんだ。お皿に乗っけてスプーンで食べている成城ガール、スイカはメロンじゃないぞ。庶民の果物なんだ。 ところで、スイカは果物じゃなく、野菜だという人がいる。果物と野菜は木になるか草になるかで区別され、草になるスイカは定義上野菜ということになるらしい。 確かに、果物の語源は「木だ物」である。「毛だ物」が獣になったように、木になるから果物というのかもしれない。うん、たぶんそうだろう。 この説とは別に、実だけを食べるのが果物で、葉や茎や根っこも食べるのが野菜という考えもある。ならスイカはやっぱり果物だ。果物がいい。ダイナマイトなんていうファンキーな品種は野菜に不似合いだし、野菜ジュースにスイカ味は合わない。 さあ、流し台という調味料で真っ赤なスイカを盛り上げよう。ダイナマイトにかぶりつこう。 ちなみに、ダイナマイトは真っ黒皮のスイカです。
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