7. お好みもんじゃ大江戸線 (2001.03.05掲載)
昨年、東京の地下鉄網に「都営大江戸線」なる新たなメトロネットワークが加わり、月島から六本木まで乗り換えなしで行けるようになった。つまり、もんじゃを食べてパラパラを踊るという離れ業が、いとも簡単に実行できるようになったのだ。 ここに、都営大江戸線の開業を記念して、関西人も納得の大江戸もんじゃ焼き講座を開講してみた。 具材論。お好み焼きには関西人が頑なにこだわる定番具材というものが特にないが、もんじゃ焼きには江戸っ子のこだわりが感じられる。基本は切りイカ。なぜ切りイカなのか。江戸前のネタで一番安いもの、というより多少古くても大丈夫なネタ。言い方は悪いが、寿司屋が使わない、やや鮮度落ちしたネタを利用するという考えである。 表面的には豪放で気前のいいイメージの強い江戸っ子であるが、実際は合理的で堅実という素顔がこの具材のこだわりに見え隠れしている。 とはいうものの、駄菓子屋の軒先でもんじゃ焼きを食べ始める小学生時代、いわゆるもんじゃビギナーの頃には、ベビースターラーメンや生卵をブレンドしたりして、下町おやじから「坊主、まだまだ甘いぜ」と軽いジャブを食らう。 焼き方論。もんじゃ焼きは小麦粉に対する水の割合が多いため、そのまま鉄板に広げるとビッグバンのごとく無限大に広がってしまう。そこで、最初に小麦粉の絡まったキャベツでドーナツ状の土手を作り、その中に小麦粉と残りの具材を流し込むのだ。 そのドーナツ状の土手は何をシンボライズしているのか。山手線?いや、生粋の江戸っ子のスケールはそんな小さなものじゃない。東京で土手といえば荒川と多摩川。この二つの川の土手に挟まれた空間に東京の全てが凝縮されており、その混沌とした世界の象徴が土手の中の小麦粉なのかもしれない。 ソース論。お好み焼きは焼き上がった後でソースをかける。そして、お好み焼き本体から流れ落ちたソースは、マウナケア火山の溶岩のごとく鉄板の上で音を立てて暴れ、いかにも発ガン性物質たっぷりという感じの面構えへと変化していく。もちろん、この部分は誰も食べない。必要以上のソースは鉄板を傷め、店長の怒りを買うだけである。 対するもんじゃ焼きの場合、ソースは焼く前に具材の中に混ぜ込む。そして、小麦粉と一緒に焼かれたソースはキツネ色を呈し、本体以上に気になる存在となる。これがなかなかウマイ。この切れ端を、この界隈では「おせんべい」と呼ぶ。 こんな具合にもんじゃ学各論を書いてみたが、かく言う私もバリバリのもんじゃビギナー。うっかり鉄板に油を敷いてしまい、ヘラの背中で焼き付けて食べるという伝統芸能ができなくなり、「勘定はいいからとっとと出てけ」と言わんばかりの店長の視線に悲しくなる始末。 補講。もんじゃ焼きの鉄板に油はいらないのです。
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