9. デュエットの秘密 (2001.03.19掲載)
天然だしの風味は素材の良さを邪魔することなく自然な旨味を盛り上げ、そこはかなき至福のだし感として五感を刺激する。 飽きのこない味、日本の味。 けど、天然だしと対極をなすグルソー(グルタミン酸ナトリウム)の味も捨てがたい。 無性に、安っぽいけど、なぜか、エグイけど、偽物だけど、毎日はいやだけど…。こんなネガティブな修飾句で食べたくなるあのグルソーの味。不思議な味。 こだわりの本格ラーメンを食べなれた粋人にもカップラーメンの誘惑に勝てない夜があり、三つ星イタメシ店のミートスパゲティーを堪能した次の日は、なぜかデュエット(松山市駅前の繁盛店)のグルソーたっぷり庶民のミートスパゲティーに吸い寄せられる。 いやいや庶民の味だけじゃないぞ。伝統の極みともいえる日本茶の場合、高級になればなるほどグルソー含量が高くなる。拝みたくなるような最高級壷入り知覧一番茶なんかだと、グルソーが多すぎて昆布の味に近くなったりもする。 はたまた政治に利用されたことだってある。日本よりもっとグルソー好きの多いタイでは、グルソーの袋を配って票集めをした政治家もいるらしい。食卓のお供がブラックマネーになったのだ。 そのチープなイメージが災いして、名前も省略されてしまうグルソーであるが、脳内の神経伝達物質として活躍する脳科学の分野では、ちゃんとグルタミン酸ナトリウムとフルネームで呼ばれている。神経伝達物質といえば、あの利根川先生もフィールドとしている最先端の研究分野。そんなところにまで顔を出すなんて、グルソーって結構いそがしいんだな。 「デュエットのミートスパ」「最高級緑茶」「脳科学」。かつての名番組、NHKの「連想ゲーム」に「スリーヒントゲーム」というコーナーがあった。この三つのワードで「グルソー」を導くのは、いかな大和田獏でも無理だろうなと思った。
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