10. いまどきのかつお節 (2001.03.26掲載)
「昔のかつお節はうまかった」という声を時々耳にする。確かにそうかもしれない。昔のかつお節は日本近海に北上してくる、いわゆる脂の乗ったかつおを原料として使用していた。これはうまい。ところが、凍結技術が確立した昭和四十五年頃を境に南方のかつおを使用するようになり、日本近海のかつおは、刺身用、たたき用に向けられるようになった。 南方のかつおは暑いところに住むせいか脂が乗っていない。これは少し淡白。しかし、いいこともある。脂の乗っていないかつおは、花かつおに加工した時の見た目がいいのだ。これが、見てくれ重視という現代の風潮にマッチし、市場で高い評価を得ているというのが現状なのである。 スネ毛や脂性が嫌われるいま、魚の世界でもスッキリ系のフェミ男くんならぬフェミかつおくんがもてはやされている。うーん、このままだと、「渋カジ系のいいかつおがあるんですけど」なんていう商社マンからの電話に驚かされる日が来るかもしれない。 しかし、こういった、「昔の○○はうまかった」という話をする場合、当然その背景にある食生活のレベルを考慮に入れなければならない。貧しい時代と飽食の時代とでは、同じものを食べても味の感じ方が違ってくるはず。特にかつお節などという地味な味のものなら、なおさらである。 背景を考慮に入れなければならないのは、なにも食べ物に限ったことではない。例えば、「幼い頃は一年が長かった」という話にしても、年齢という背景を考えれば五歳の一年は五分の一だが三十歳の一年は三十分の一であり、三十歳にとっての一年の方が相対的に短く感じるのは当然である。 ところで、かつおの脂の乗り方は腹部のしま模様で大まかに判断できる。しま模様がはっきりしているかつおほど脂の乗り方が悪く、かつお節に向いている原料ということになるのだ。 そんなよこしまな理論は信用できないって?いやいや、そんなことはありません。かつおのしま模様は、水産学的には、よこしまではなくたてじまになるのであります。
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